窪美澄「夜に星を放つ」904冊目

短篇集だった。どの短編にも星座や星がモチーフとして出てきて、どの短編も家族間の関係を切なく描いている。だいたい家族の誰かが死んでいたり、いなくなっていたりする。家族って星座みたいなものなんだろうか。天体は地球から見てほぼ不動だけど、あれとあれ、と星をつなげて線を引くのは人間だ。家族って誰かがランダムに引いた線に囲まれた領域でしかない、みたいな。

ふがいない僕は空を見た」は映画だけ見たけど、あれは衝撃だった。コスプレイヤー関連で人妻と不倫をして、その動画が拡散されて学校でもばらまかれてしまう主人公。この子死んじゃうんじゃないか、と思いながら見てたのを覚えてる。誰にでも、とは言わないけど、そういう絶壁のふちに立たされるような経験をした人なら、あの映画で少しは救われるだろうか、と思った。それと比べると、この短篇集はとても静かでゆるやかで、ちょっと小粒な感じだなと思う。長年書き続けてきた作家がとうとう直木賞を取る作品って、(佐藤正午の「月の満ち欠け」みたいに)わりと重厚長大な感動作をイメージしてたので、意外。面白いし、じわじわときたけど、存在感は群像で賞を取った若い才能ある作家の最初の単行本みたいだったので。重けりゃいいってもんじゃないんだよ、と選者のみなさんから言われてるような気がする。

こんな風に、少し知ってるけど読んだことがなかった作家の作品を読むきっかけとして、賞の存在って私にとっては大事なんだよなぁ。