これも「一万円選書」の一冊。映画化されると聞いて、映画を見る前に読んでしまわないと!とあわててページを開きました。
読みやすくわかりやすく、ものの2時間でするすると読んでしまった。「一万円選書」はこのように読みやすい本が多い。おそらく、本を読みなれている人もそうでない人も申し込んでくるので、そもそも読みやすい本セレクションを揃えて待っているのかなと思います。これもまた、どんな人も最後まで面白く読めそうな本です。
これは実在の人物たちが実名で登場するけど、ドキュメンタリーとかノンフィクションとかではなく、あくまでもフィクション。たとえて言うと朝の連続テレビ小説みたいなドラマです。ただ、著者の想像の翼だけに頼るのではなく、おそらくかなりの調査に基づいて、現実の宮沢賢治、妹のトシ、父政次郎等々の姿を浮かび上がらせようとしたのだと感じました。
「あめゆじゅとてちてけんじゃ」と最後にささやいた妹トシは、誰もがか弱い少女だと思ってただろうけど、病気になる前は大変利発で気が強い女性だったんですね。(なんとなく「智恵子抄」と少し混同してたかもしれない)
父の頭のなかを辿るための資料などおそらくほとんど残ってなかっただろうから、心の中で息子を溺愛したい気持ちと家長として立派にふるまおうとする気持ちの葛藤は、ぜんぶフィクションだろうけど、一人の明治の男の心の中を想像するとこうだったのかも、と思えてきます。冷たそうに見えて愛情どっぷりなのが、読者をほっとさせます。
そして賢治は、朴訥な農業者だったというより、頑固な理想主義者だった、という感じですね。(この本では、ですが。)生活や家族の安心を犠牲にしても理想を貫こうとしたその極端さが、あれほど研ぎ澄ました童話のかずかずを産み、それが今も稀有な名作として残っているのかもしれないですね。
映画も、老若男女、家族みなで味わえるものになるんじゃないかと思います。