佐藤ジョアナ玲子「ホームレス女子大生川を下る」924冊目

面白い本しか書かない高野秀行氏(このブログの常連)が激賞していたので読んでみました。さすがです。面白いものを書く人が面白いという人は本当に、腹の底から面白い。

佐藤さんは自分の蓄えてきた身一つでアメリカの郊外に留学し、お金がなくなってアパートを追い出されたら小さい組み立て式カヌーと少しの道具だけでミシシッピ川を3000キロも下るのです。

この方、若くして母も父も失って、人生には甘いことなど一つもないとこんな年齢で悟ってしまったのか、一人でかつ独力で生きていくことに何の迷いもないように見えます。人間レベルの階段の頂上近くにすでに至っているような。他人になにひとつ期待していないので、してくれること全てに感謝できる。どんなアクシデントも楽しみと捉えられる。25歳までにみんながこんな経験をして覚悟を決めることができたら、世界はものすごく良い場所になるだろうな。

サバイバルに必要なのは考えて考えて考え抜く力、その積み重ねから生まれる「勘」。健康な肉体も必須でしょうね。

すごく変かもしれないけど、最近見たアニエス・ヴァルダ監督の映画「冬の旅」を思い出しました。あの主人公の女性(モナ)もこのくらいの年齢でしょうか。社会を倦んで一人で旅しているところまでは同じだけど、モナは社会を、人を、憎み続けてる。自分で考え始めていないから、何をやっても失敗する。彼女たちを旅へいざなったものは、もしかしたら似ていたかもしれないけど(映画では何も語られないし、佐藤さんもあまり詳しく本に書いてません)、大いなるこの違いは。

映画「ノマドランド」を思い出した人は多そう。旅で出会った人と飲むビール、焚火で沸かして飲むコーヒー。・・・でも最近のキャンプ女子のことは連想もしない。彼女たちは佐藤さんやノマドランドのファーンは開いてるけど、インスタ映えする写真やYouTubeを撮ってる彼女たちは閉じてるように見える。日本とアメリカの環境の違い(主に人かな)から来る違いかもしれないけど、見栄えを棄てたら世界は少し違ってくるのかな。

肉体も脳みそも鍛錬した自分だけを持って、広い世界の中で小さく生きるのって、私の理想なのだ。「Culturally rich」というのは、芸術の素養のことじゃないのだ。生きる全てがculture。

佐藤さんの今後の人生をずっと見ていたい、かないようがないけどお手本にしたい、と思います。どこにいて何をしていても、がんばれ佐藤さん。