アレクサンドル・ベリャーエフ「ドウエル教授の首」925冊目

強烈にインパクトのある1925年のロシアSF。ざっくりいうと、遺体の蘇生を研究していた学者が、助手に殺されて実験台になり、首から上だけの状態でひそかに生き続け、助手の研究はさらにエスカレートして・・・というお話。当時はこんな未来もありうると考えられたんだろうな。

ロシア作品らしく(偏見かもですね、私)それぞれの自我が強くて独白が多いのが、奇天烈な設定に深みを持たせています。ドイツ時代のフリッツ・ラング監督で映画化してほしかった。「カリガリ博士」とか「M」みたいな古典になりえたかもしれない。

この著者、実際に大人になってから脊椎を傷めて5年間も首から下が動かない生活を経験してるそうですね(今日付けのWikipediaによると)。体の自由がきかないのがどういう精神状態か、彼は知った上でこの本を書いてるわけです。どうりでその牢獄に閉じ込められたような感覚の表現に重みがあります。

邦訳はなんと10回も出版されています。きっとそれぞれの発行部数はあまり多くなかったんだと思いますが、「これを世に出したい!日本のSF読者に届けたい!」という出版関係者の熱意が感じられます。

これ、アメリカの人が書いて映画化したら、めちゃくちゃサイエンス寄りになって、閉じ込められた人間の精神はさらっとホラーっぽく表現して終わりそう。ロシア的な深みの魅力を改めて実感しました。