京都に「鶏肉のどろどろ」という料理を出す中華の名店があるらしい。お昼どきのバラエティ番組を見ていたら、その料理を紹介してました。これには由来があって、谷崎潤一郎のある小説のなかに、この料理の名前だけ出てくるんですって。お料理そのものは、実際お椀のなかに白っぽい半固体のようなものがたっぷり入っていて、「谷崎スープ」という名前で出しているとのこと。試食した人が、鶏のひき肉や豆腐の味がすると言っていました。
私がひっかかってしまったのが、その短編のタイトルのほう。「過酸化マンガン水の夢」っていうんですもん。あの耽美の大家、谷崎にしてなにやらSF的な?マッドサイエンティストが出てくるのかな?いや、正直まったく想像つきません。
この短編が収録されている本のうち、一番借りやすそうなものを借りてみました。このほかにも全11編、すべて別々の作家の作品が収録されています。シリーズもので、これが18冊目だそう。なにやら怪しくてゾクゾクします。
読んでみたところ、過酸化マンガン水というのは赤いらしい。そんな色の液体をあらわす比喩に使われていました。内容は日常的なエッセイなのですが、主人公が妻と妻の妹を連れて熱海から所用で上京した際に、ジプシーローズのストリップに3人で出かけたり、あるいはひとりで「悪魔のような女」というフランス映画を見たりしています。ジプシーローズのことはよく知らないけど、その舞台に出ていた、おそらくまだうら若い春川ますみが気に入ったと書いてあったり、映画の筋や見どころに触れていたりするのが、ほんのここ数年のことのように身近に感じられるのは、私がずっと昔の映画ばかり見てるからでしょうね。
春川ますみは、その後年を経て優しそうなオバちゃん女優として活躍しましたが、今村昌平監督の「赤い殺意」では強盗に惚れて堕ちていく主婦をゆるく演じて印象的でした。「恐怖の報酬」を撮ったアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の「悪魔のような女」は消えた遺体、悪女、などが渦巻くサスペンスで、観客を驚かせることばかり追い求めていてあちこち筋が破綻してる、などと私と同じような感想を書いています。趣味が合うわぁ。(ほんとかしら)
他の短編も面白い。なんといってもテーマが「夢と幻想の世界」ですから。村田喜代子の「百のトイレ」は細部までよく覚えてる作品。川上弘美の「消える」は昔ばなしのよう。星新一や色川武大の作品を読んだのは何年ぶりだろう・・・など。
でも本当は、周囲に何もない旅館に泊まって、VODとか見ないで、虫の声でも聴きながらじっくり読めたら最高だろうな、こういう本は。そんな機会があったら、またこのシリーズの本を読んでみたい気がします。
うタイトルなんですよ。