ガストン・ルルー「オペラ座の怪人」942冊目

オペラ座の怪人特集だ!

最近オペラやバレエを見る機会が多くて、それならミュージカルも見に行ってみよう、ミュージカルといえば劇団四季だ、私はいまだかつて一度も見たことがないので見に行こう、見たいのはオペラ座の怪人かCatsだな、ちょうど大阪に行く用事があるから、ついでに大阪四季劇場行ってみてこよう。ということで先週見てきました。

ところで私の大好きな映画に「ファントム・オブ・ザ・パラダイス」があります。これは「オペラ座の怪人」を原案としつつも、舞台を現代に置き換えてオペラ座ではなくロックシアター、音楽はポピュラーミュージック、という体裁で作ったブライアン・デ・パルマ監督作品です。私の頭のなかの怪人のイメージは、この映画が強い。つまりかなり歪んでいます。それと、劇団四季版とを思い出しながら読んだうえで、原作の感想を書いてみます。

原作はおどろおどろしいですね。怪奇小説です。やたらとあおってきます。クリスティーヌとラウルは少年少女のように無垢で感じやすい、映画黎明期のすぐ気絶するヒロインを思わせる造形。単に見た目に傷を負って生まれてきただけで、他に何も障害はなく才能豊かな怪人は、当時の価値観により「醜いゆえに性格がゆがんで悪の道に走る」という、現在のダイバーシティ的には共感しづらい造形です。すべての謎は、ファントムがかつてペルシャ人(国籍だけでほぼずっと語られるキャラクター!)と共に働いた職場で見につけた、舞台装置や隠し部屋の技術によるもの、と科学的に解決されます。(ムリムリな部分も多いけど)

登場人物はおおむね一致しているんだけど、若干の違いがあります。支配人グループの交代はほぼ原作と同じだし、マダム・ジリも同じ印象だけど、語り部であり怪人とそれ以外の世界をつなぐ重要なペルシャ人がほぼ劇団四季版には出てこなかったような。隠し部屋へのルートはクリスティーヌ自身がラウルを案内するし、ラウルはペルシャ人の力や知恵を借りずに怪人へと至ります。怪人の生い立ちは、このオペラ座内で生まれ育ったと言われていたように思います。

劇団四季版(というよりアンドリュー・ロイド・ウェーバー版というか)はオペラのリハーサルや上演野の面が原作より拡大されていて、舞台装置、衣装、圧倒的な歌唱など含めてミュージカルの重要な見せ場をいくつも構成しています。隠し部屋への道のりは大分はしょられてるけど、それでも湖や密室、大きな鍵など印象的な部分はしっかり残っています。・・・総合して、原作はそれほどビジュアル面の魅力を感じないけど、卓越した舞台全体の造形によって劇団四季版・ウェーバー版は視覚的スペクタクルになってますよね。

音楽的には、オペラがモチーフなので、オペラ的にクラシックの声楽のスタイルで歌うのかな。ミュージカルといってもたとえば「ウエストサイド・ストーリー」とか「ラ・ラ・ランド」とかは(当然)ポピュラーミュージックのスタイルで歌うわけですが、この作品そのものがオペラといってもいい形です。(そう考えると、新国立劇場の生オーケストラがちょっと恋しくなってしまうけど)

原作自体は、今の時代にはあまり読みやすいものではないと思ったけど、想像をかきたてる素材ですね。書かれたのは日本ではまだ明治時代の1909年。最近また銀座の歌舞伎座建て替えの呪いとかネットで騒いでる人がいるようだし、これを原案として「歌舞伎座の怨霊」か何か誰か書いてもらって、劇団四季でも宝塚(やるか?)でもいいので、上演してくれたらなぁ、などと思ったりします。