映画の影響って大きいなぁ。私もこうやってこの本を読んでみたわけだし(幸田文も読んだ)、絶版になっていた本が再発売されてAmazonの「ベストセラー」になってるなんて。
「PERFECT DAYS」にちりばめられたアイテムのテイストはちぐはぐで、
幸田文 vs パトリシア・ハイスミス
これは、
小津安二郎 vs ヴィム・ヴェンダース
でもあるように思います。不思議と、映画だけは、小津監督とヴェンダース監督の作品を両方好きな人は多そうなのに、石川さゆりとルー・リードを両方聴きそうな音楽愛好家や、幸田文とパトリシア・ハイスミスを両方普段から読みそうな読書家の層が思い浮かばない。いるとしたら評論家レベルの、幅の広い愛好家だろうか。
つまり、パトリシア・ハイスミスは「幸田文好きの人はまず読まなさそうな本」だと思いました。
むかし大学の「現代アメリカ小説」の授業でこの人の短編を読んだことがある気がします。(うろ覚え)ちょっとおどろおどろしい、ゴシックホラーテイストの作品がいくつかあったっけ。この短篇集もそんなテイストで、ホラー映画百花繚乱の2020年代に生きる私たちから見ると懐かしいような感じもあります。11の短編のひとつひとつが、その後大きく膨らまされて、それぞれがホラー映画としてすでにブームを起こし終えているような。演出をすべて削ぎ落した骨子だけの映画を読むイメージ。
そういう全部を愛好する、枯れた雰囲気の初老の男、というのはやっぱり、日本でもドイツでも、毎日の仕事に追われて刺激に疲れた一般大衆が憧れる偶像であって、実在する人物ではないなぁ、と思っています。・・・あるいは、平山はじつはつい最近、2年くらい前までたとえば広告代理店の専務で、第一線を急に退いて、枯れた生活を実験的に、コスプレみたいな感覚で楽しんでいる、と考えれば実在できるんだろうか。うーんやっぱり難しいなぁ。