なかなか異色の対談書でした。村田喜代子は佐藤正午と並んで、この30年以上愛読している「文章の達人」。達人となるためには推敲に推敲を重ねる必要がありますが、この本は「文字起こし」そのものか?と思われるほど、言いよどみ、一ダイアログのなかの矛盾などに満ちていて、なんだか初めてこの人にリアルに出会えたような気さえします。この振れ幅の大きさ、なんだか興味深くて、ちょっと嬉しくもあります。
対談相手は、表紙絵の作者である木下晋。この人もよく語る人ですね。無口な、植物みたいな人がこういう絵を描くんだろうかと思ったりしたけど、めちゃくちゃ人間臭い。絵に迫力や語りかけてくるものが多すぎて、言葉は必要ないのが普段の作品世界のように思うので、こちらも、描いている人が初めて生き生きと迫ってくるのが楽しい。
でまた、この二人の会話が、全然かみ合っていないような、ぴったりくるような、不思議なバランスです。二人とも語りたいことがたくさんあり、自分の表現で語りたい人だからか、同じ考えに見えることでも相手に「その通り」ということが少なく、言い換えたり否定したり。でもその実、けっこう近いところを交わったり並行しながら進んでいる人たちなんじゃないかな、という感じもありました。
この対談を本にするのはすごく難しかったんじゃないかと想像してしまうのですが、「司会」であり出版元の代表者でもある藤原良雄氏が、話題をあっちに振りこっちに引っ張りしながら、散逸を最小限に食いとどめていくのがまた面白い。
対談の二人の少なくともどちらかに深い興味がなければ、とりとめなく感じる人もいるかもしれません。ファンの方々には、逆に必読の一冊ではないかと思います。