星野博美「みんな彗星を見ていた」1070冊目

どういう本かわからなかったので、最初に「あとがき」を読んでしまったら、日本での宣教師の殉教について書いていることがわかって、最後まで読めるかどうか、かなり不安になりました。それでも最後まで興味深く読み進めらたのは、語り口がニュートラルなことと、リュートを通じて軽やかで明るいムードがずっと感じられたからかもしれません。

読み終わってみると、歴史ノンフィクションエッセイの大著、という印象。重いテーマにこれほど長年にわたって集中して、揺れ動く感情と論理を別のところに置いて、冷静に追い切った著者に敬意を表します。

純粋で真摯かつ熱意あふれる信仰心を持つ人々がどうして、逃げ道を与えられても死に急いでしまったのか、という謎に関しても著者なりの考察があります。信念をもって死を受け入れる心情を推測する上で、日本の特攻や極端な信仰・信義を持つ人たちを連想する人は多いと思うけど、この本ではあえて一切ふれていません。

私は本を書いて広く発売する責任のない一読者なので、自分が思ったことをそのまま書くと、一昔前に話題になった日本の舞台「ウィングス・オブ・ゴッド」を思い出した…お笑いコンビがタイムリープして第二次大戦中の特攻隊にいて、最初は元の世界に戻りたがっていたのに、仲間が次々に特攻に向かうなかで自分も鉄のカタマリに乗り込んでいく、という物語。輪廻転生、極楽浄土、あるいは天国を信じる人たちにとって、”死は敗北ではない”し、仲間を思う気持ちから”自分だけが生き残っているわけにはいかない”と追い詰められていく心情には、どこか似た部分があるように思えます。

楽器「リュート」にのめり込んでいく部分は、ただひたすら面白く読んだけど、歴史をたどって最後スペインに赴くくだりは、自分もやりかねないくらい共感しました。というか、偶然だけどまさに年明けにスペインに旅行する予定があって、多少は地方にもおもむくつもりなので、郊外の列車やバスの中でこの本を思い出すんだろうな、と思います。