有吉佐和子「青い壺」1071冊目

令和のベストセラーだそうです、書かれたのは昭和52年(1977年)なのに。有吉佐和子といえばドラマ「悪女について」の印象が当時衝撃的で、その後たまたま手に入れた原作を読んだら、さらに迷宮の中へはまり込んでいくような気分になりました。あれはさまざまな人たちが、ある一人の女性についてそれぞれ全く違うことを語る作品でした。この本もまた、さまざまな人たちの、ある一つのものへの全く異なる関わりを描いています。

それぞれの物語の中心になる人たちは、戦争経験者。今でいう後期高齢者が多くて、時代的にはおかしくないけど、自分の祖父母は田舎の人で高価な壺など無縁だったこともあって、昔からの友人たちと旅行したり、ナイフとフォークでご飯を食べたり…という高齢者が昭和52年には想像できなかったなぁ…。

かつての豊かさ、戦争による没落、夫や昔からの友だち、子どもや孫との関わりが縦横無尽に描かれていて、壺がなくても面白いくらいだけど、唐突に彼らの生活のなかに現れるひとつの壺が、つめたく超然と、彼らのあわただしい生活を映します。

「面白さ」は普遍的なものだと思う…人間の本質は数百年やそこらで変わるものじゃないから。1968年の「三島由紀夫レター教室」とかも面白かったなぁ。誰かが強く勧めてくれる本、書店で強力に推している本にハズレなし。