これもAudibleで。これはすっごく面白かったです。ナレーターが一人で語っているのに、成瀬とその親友 島崎、同級生の大貫や、成瀬に惚れる西浦少年とその友人 中橋。といった登場人物の口調や声音が明確に聴き分けられて、それぞれの人物像が生き生きと聞こえてくるんですよ。これはおそらく、文章の時点ですでに、彼らが立体的に実在の人間として個性を発揮しているからでしょうね。
まぁこの成瀬の面白いこと。200歳まで生きることを真顔で人生の目標として語り、思い立って親友とM-1グランプリに出場する成瀬。学校の成績は当然トップ、かるた大会でももちろん優勝を狙う。一切わき目を振らない。…空気読まない王者のような成瀬ですが、個人的には共感することが多すぎて…。
映画の感想とかでもいつも、自分の空気読めなさを申し訳なく思うとか、学生カーストって理解できないとか書いてる私です。それに思い立ったらわき目も振らないというのはこれまでの一生で何度言われたかわからない方なので、学力ほかの能力が足もとにも及ばないことを差し引いても、成瀬は空気読めない界のトップスターとして今後もどんどん書かれ続けてほしいと、同じ界隈の人間として切に思います。
「トップスター」という言葉を使いましたが、成瀬の言葉遣いは「私は膳所中学の成瀬だ。」みたいな男しゃべりで、宝塚の男役トップスターふうなのです。ドラマ化しても面白いと思うけど、まだ中学生~高校生であるにもかかわらず、頭の中の彼女は天海祐希とか珠樹りょうの立ち姿に似ています。成瀬は空気読めないけど繊細で人の気持ちを大事にするやさしい子なので、腹を割って話す相手とはずっといい関係を保っています。しかし、これだけ繊細な子が、空気読めないふしぎな成績トップ学生として長年くらしているのって、悪意の人々に心をズタズタにされたりしないんだろうか。親友と向かい合うとき以外の彼女の感情は、基本的にこの本では語られませんが、同じ空気読めない星のものとして半世紀以上やってきた私としては、彼女の本当の心の痛みが気になります。
ところで、Audible特有の経験の話をすると、びっくりドンキーで成瀬たちが食べるのが桃の「カフェ」と聞こえたので、何だろうと思ってググったら「桃のパフェ」だったりしました。「ゼゼカラ」の「ゼゼ」は、章タイトルになっているので「膳所」だとわかったり。逆に、「江州音頭」の江州が「こうしゅう」とかではなくて「ごうしゅう」だということは、音を聴かなければわからなかったな~。
とりあえず、成瀬シリーズは今後も読み続け、あるいは聴き続けていこうと思います。