伊与原新「宙わたる教室」1071冊目

面白かったし、しみじみといい作品だなぁと思いました。定時制高校が舞台で、バラバラな生徒たちが負けるもんかと研究を重ねる、という筋には、感情的になりすぎる大きなリスクもあります。かわいそう、感動した、というだけでなく、シニカルだったり照れたりするリアルな人間像が感じられて、ほっとした感じもあります。

作者はすごく細やかに人を見て、外から見つけにくい美点を捉えてくれている。これに登場する理科教師は、「食えないやつ」と同僚に言われたりする、ちょっと策士な秀才だけど、登場人物のなかで一番の正義漢だったりもする。金髪の不良少年も、リスカを繰り返す繊細すぎる少女も、フィリピンルーツを持つおばちゃんも、叩き上げの工場長も、まったく美化していないのにだんだん愛しく思えてくる。

安易な感動を避ける努力を惜しまなかった作品、と言えるのかもしれません。(めちゃくちゃいい意味で)その努力に敬意を表したいし、そういう書き手なので、他の作品の舞台は全く違うところにあるのかも、と期待もふくらみます。引き続き、読み続けていきたい作家さんです。