一気に読んでしまった。わりと硬質で修飾の少ない文体のように思うけど、とても読みやすい。人物もストーリーも、大げさに見せようとするところがない。
昔から、何をやってもうまく回らず、運に見放されたのか、としか言えない人がいる。そういう人が犯罪者になり、生い立ちが暴かれて、それを聞いてわびしさがつのることがある。そういう人たちの心の中はどうなってたんだろう。きっと、強かったりずるかったりするのとは違う。優しくてそうなってしまった人がいる。それを知りたい、という気持ちに対する一つの答えを出してみたのがこの小説、と思いました。
ひとつ思ったのは、響子って人は、考えない人だったということ。その母もそうだし同じ町の関係者たちの行動も同じ。人生が脊髄反射みたいな判断の積み重ねのようだ。世の中の人たちには、自分の物差しを確立しようとしないで、反射だけでやっていく人がこんなに多いんだろうか。私は、いじめられたら、考えに考え抜いて、自分に原因がないと判断できたら、自分を責めるのはやめる。運命は実際にはなかなか変えられないけど、自責感情が少しでも弱まれば、少し自分に優しくできるようになる。そこにいる限り変えられないと思ったら、逃げる。新しい場所に行き詰まったら、また別のところに逃げる。考えて考えて、考え抜いているうちに、知恵がついてくる。生まれたときから知恵のある人間なんていないのだ。
眠れない夜はなくならないし、隙を見つけて差してくる人は虫みたいに闇からぞわぞわ湧き続けるし、犯罪の被害者にも加害者にもならずにやっていくだけでも大変だよ。連鎖をどこかで終わらせよう、という意志が善に思える瞬間もあるだろうよ。もうそれはエバンゲリオンのラストみたいなものだ。そっちがいいと思った瞬間もう取り込まれてしまうから、美味しいものを食べたり可愛いものを愛でたりして、なんとか昨日も今日も生き延びていくのだ。