団鬼六「真剣師 小池重明」1088冊目

いやぁすごい本だった。事実は小説とは比べ物にならないくらい奇なのだ。

これ、最近なにか本を取り上げた番組で出演者の若い女性が激賞していたので読んでみたんだけど、なんとなく手に取るのをためらってしまった。著者について、なんか縛ったりたたいたりするのが好きな人なんでしょ?という漠然として認識しかなかったので。大変失礼しました。全然そういう粘着質な感じのない端正な文章で、彼にも影響やダメージを与えた昭和の傑物について愛憎こもごもつづっています。

とてつもない将棋バカ。というか、勝負にこれほど熱くなれる人間だから、女に入れ込んだり、競馬にてをだしたりする歯止めがつかない。本物のバカだ。純粋無垢なバカだ。なんだか、「千年の愉楽」を思い出してしまった。何の計算もなくただ地獄へまっすぐ落ちていく生き物が、小賢しい人間たちと違って、野生の動物のように美しい気がしてくる。ますますpolitically correctになっていく地球上に、こういう生き物はもうなかなか生まれないんじゃないか…。

勝ち負けって、将棋であってもケンカ(本気の)であっても同じなのかもしれない。小池重明には、プロレスとかK-1とか空手とかの格闘技も似合いそうだ。肉を切らせて神経を断ち、相手を再起不能にするまでたたきのめすんだろうな。最初はあやふやに始まり、絶対に勝つまで食らいつく終盤。…あるいは「Eスポーツ」の覇者であってもおかしくない。Eスポーツならもしかしたら長生きできたかなぁ、他は40までも生きられない気がするけど…。

すっごく面白かったし、アッパレ(ある意味)な人間を見せてくれたのはすごいことなのでした。