「星を編む」の前日譚。時系列は前後してるけど、こっちを先に読むのが圧倒的に正しい順番です。
「編む」のほうで触れられていなかったけど重要そうだった、櫂と暁海の出会いからさいごの別れまでが時系列に沿って書かれていて、傍流にいるのが北原先生のほうのストーリー。この本ではそれが語られないので、北原先生や結ちゃん、彼女の母のことが気になってたまらなくなりそう。そんな読者にこたえるのが「編む」ですね。
これほど誰かと強く思い合うことができる人生は濃い。こういうことを幸せと呼ぶ人もいるだろう。切実なものは何もないけどよさそうな相手を選び、平和に暮らすことをよしとする人は多いだろうし、もしかしたら、誰とも愛し合わないまま、世間の風から隠れて一生を送る人もけっこういるのかもしれない。子どもの頃から世間に守られないままで生きてきた人は、世間体を守るために自分にうそをつくことの無意味さを知ってしまっている。
この著者は「なさぬ仲」の男女を描き続けるんだろうか。なさぬ仲なら、愛のために家を捨ててもいいわけじゃないだろうし、愛のない浮気が許されるわけでもない。誰かが真剣に誰かを思うことが悪いことだとは思いにくいけど、相手を独占する契約が結婚なので、結婚相手がお互いを束縛することは当然期待される。全部のケースをひとつの例に当てはめようとすると、うまくはまらないで零れ落ちるものがある。そういう部分を描きたいのかな。
複雑さに耐える精神は、生き抜いていくうえで必須なんだろうなと思います。古今東西。