高野秀行「酒を主食とする人々」1112冊目

タイトルを見たとき、これは比喩的表現であって高野氏が自分自身や酒好きの気のおけない仲間たちのことを書いた本かしらと思いました。一瞬だけ。でも本当に、”酒を主食”というか副菜もほとんどなく、ある種のアルコール飲料をほとんど唯一の栄養源として、たくましく育って健康に暮らしている人たちが実在するようです。しかもエチオピアなんだ。私の好きなコーヒーの産地じゃないですか。(現地の人たちはコーヒー豆は輸出するので飲まないらしい)

このどろっとした飲み物。作り方は詳しく書かれていますが、原料となる植物がどういうものかまったく想像がつかないので結局何も頭に入りません。ただ、主食のその飲み物の形状はバナナジュースのようで、蒸留酒を想像すると、それとはまるで違っています。強いていえば「どぶろく」や「甘酒」のような。もっと広げると、最近あまり見ないけどカロリーメイトの缶入りの飲み物のほうにも似ています。そう考えると、そのアルコール飲料が「総合栄養食(アルコール入り)」であるとみなすのも無理ではないかもしれません。マドレーヌとかマカロンとか、焼き菓子を買ってくると個包装にアルコール粉末の小袋が入っていて、それで品質保持をしていることがあります。冷蔵することなく保存でき、持ち運びも簡単、水で割って飲むだけというそれが、アルコールによって保存性を高めた総合栄養食だと言い切ってもいい気がしてきました。

ぜひともそれをそのまま持ち帰って、栄養分析をしてみてほしいです。なんなら原材料の植物を輸入して、同じ製法でアルコール飲料を作ったあとでアルコールだけ飛ばして、缶詰にしてカロリーメイトの隣で売ってほしい。というかただ飲んでみたい。私はおいしいものを食べるのが好きだけど、自分で調理したくないこともあるので、家に何本か買い置きしていつでも飲めるようにしたい。…でも生まれ育ちが違うので、日本に住む私には総合栄養食として消化吸収されないかもしれないな…。

それにしても今回も面白かった。人間の集団って、深く細かく観察すると、たぶんどんな人たちでも面白いんじゃないだろうか。はるか彼方の不思議な慣習で暮らす人たちが、やがてお隣さんのように思えてくるこの人の本がほんとに好きです。