「ダガー賞を日本で初めて受賞」と聞いて、さっそく読んでみました。昨日の朝ニュースを見てさっそく書店に行ってみたら、もう「受賞!」という帯が追加で巻かれていて、グッジョブです。
この人の作品は初めて。最近は「人が死なないミステリー」とか、「心がほっこりする名作」とかが読まれる傾向にあると勝手に思ってたので、いまどき珍しく思えるハードボイルドな文体、容赦ない暴力。ハードボイルドはあまり読まない方だと思うけど、最近読んだ中にはこんなのがあったな…と回想。
これを読んで「ヒャッホー!」と言いたくなる自分は(今回そうでもなかったけど)、タランティーノの映画で、執拗にいたぶられた後に完膚なきまでにリベンジを遂げる場面の自分と同じ。私にもそういう、理屈や常識をおいといて、昇華させたい復讐心とか残酷さがひそんでるんだと思う。ああいやだ。
この小説の場合、”女性が快哉を叫ぶシスターフッドの物語”という側面があり、暴力小説(ハードボイルドから言い換えてみる)の読者に男性が多い社会ではベストセラーにはなりにくいかも、という気がします。
暴力の思い切りの良さに戸惑う部分があっても、だんだん物語世界に入り込んでいって、彼女(たち)の心情に共感してしまうとすべてが腑に落ちていきます。その辺の描き方がとても丁寧です。舞台は日本文化特有の表現の多い世界だけど、主人公 依子は欧米の遺伝子をもっていて、祖母からは”鶏の足に支えられた家”の話や魔女の話を聞いています。「ババヤガ」にふれた部分があったか思い出せず、ネットで調べたら、この家に住む西洋式の”やまんば”がババヤガらしいですね。依子自身は「鬼婆になる」という表現を使っています。
この方、見た目なんとなくマツコ・デラックスを思い出します。人智に長けて鷹揚な感じ。この小説の主人公の、”ブス(と何度も言われる)”で大柄でぜんぜん可愛くない若い女性の道行に納得感を持たせて読ませる力量はすごいと思うので、今までの他の作品も読んでみようと思います。