面白かった。読む前に著者インタビューを見てたので若者が書いたと知ってたけど、知らなかったら中年のドイツ文学研究家が書いたと思ったかも。でも知って読んだおかげで、わざとアカデミックで老成した雰囲気を演出してるという認識で、コスプレ的な楽しみを味わうことができました。(著者本人は本当に研究者なので、この文体は彼の天然のものである可能性が高いけど)
この特徴的な演出を苦手に感じる人もいると、ネットを見て回っていたら書いてありましたが、これこそがこの本の(おそらくこの著者の)持ち味…私はゲーテはほとんど読んだことがないけど(「若きウェルテルの悩み」は中学か高校のときに読んだけど肝心の「ファウスト」がまだだ)ボルヘスは好きだし、特定の文を作品の中から見つけ出そうとするような作業は、面倒だけど、いやだけど、ミステリーの犯人当てやトリック当てのような謎解きの面白さがあると思います。
それにしても登場人物の名前がめんどくさいな。統一って書かれると、反射的に「統一」って呼んでしまうし、この人の名字は最後まで覚えられなかった。他の人もみんな見たことのない名前か、通常と違う読みだ。こういうのは私は苦手だし、ここから気持ちが離れていく読者もいるかもしれません。
それでもすごく面白く読み進められたのは、自分には想像もつかないアカデミックで温かい家庭っていう存在が魅力的だからかな。「青い壺」の中にもこんな家庭が出てきたし、須賀敦子の文章とか読むと、文学作品について家族や親しい人たちと語り合うのってわりと普通にあることなのかなと憧れます。
謎解き面からは、「その謎(ゲーテは本当にその言葉を言ったのか、ゲーテは本当にすべてを言ったのか)は解かれるべきか否か」っていう命題も含めて、解こうとする過程がおもしろい。(解けてないのに使っちゃうところも)謎というより「隠しごと」だけど、家族や同僚の秘密もあきらかになる。著名な論客の統一が小さいことでビビったり、人の失敗に割におおらかだったりするのもいいです。この人はこの先どういうものを書くんだろう。多分、エッセイもすごく面白いと思う。この本と同じようなものばかり書けと言われると多分やる気をなくすと思うけど、この先またこんな風な、謎解き要素のある小説も書いてほしいです。
