上田岳弘「ニムロッド」1126冊目

わりと、こういう小説が好きです。どういう小説かというと、取り立てて特徴のない若い主人公、とくに男性が、日々の仕事や人づきあい(わりと狭い)をなんとかやりつつ、仕事中でも人と会っていても、関心がどこか遠くへ飛んで行ってしまう。空想の世界が共存している。経歴でいうと比較的、書き始めてから10年とか長期間がたっていない。文章はあまり飾り気がなく読みやすく、素直に読んでいるだけで、気がつくとどこか遠くに連れて行ってくれる。…30年くらい前に小説をたくさん読むようになって、村上春樹はもちろんですが佐藤正午とか村田喜代子とかが私にとっては同じ距離感で読める「好きな作家」となっていったものでした。そういう感覚を、この本で思い出しました。

ニムロッドっていう語感が不思議だけどITっぽくて現実感もあるし、高い高い塔、サトシナカモトというビットコインの有名人と同じ名前(名前自体はよくありそう)の主人公、荷室という病んで辞めた先輩の空想世界、社長の気まぐれで余ったサーバーで採掘、といった設定も、なんかいい。30年前の私がもし本気で作家を目指したら、近いものを目指したんじゃないかな(そして多分失敗する、)と感じさせる身近さです。

起承転結とか結論とかは、あるような、ないような。ぼんやりと放り出されているのになぜか快感をおぼえる終わり方。

1冊だけではわからないことが多いので、続いて他の本も読んでみたいです。