<ネタバレあります。注意!>」
あーおもしろかった。
「あの本読みました?」で取り上げられていたので、主人公の正体についてぼんやりとわかってはいましたが、
生殖器そのものというより、それに巣食う生殖本能っていう設定なんですね。その設定に驚きがあるし、彼(男性?)が1冊をかけて語り続ける”生殖あるいは生産性に関する持論”が、1冊分あって長いんだけど理にかなってる気がして飽きません。
というか、1冊かけて持論を展開しているのであれば、これは小説というより、小説の形をとった著者の論文みたいなものでは?(何らデータや根拠はないけど)
主人公の宿主である30歳くらいの男が、現在の彼の生き方に至った経緯は理解できるけど、誰にでも実現できるわけじゃないし、妙に器用で達観していて自分のこと同期に対しても「私」とかいうし、周囲の人はみんな(彼もしかしたら)ってうっすら思っているという例ではないかという気もします。本人が貝のようにしているので、周囲の人たちも、言いたくなっても口をつぐむ愛情がある。
私なんかは見た目も育ちも性的思考も民族的出自も平凡だけど、なぜか共同体から憎まれたり仲間外れにされた経験が多々あって、共同体ってところは、だいたいみんな同じであれば何か少しでも秀でいたり劣っていたりして違いがあるものをいじめて喜ぶものです。私のようなものの場合同じジャンルの人に出あうのは難しくて、長年対策を考え続けてやっと今、この主人公の現在の状態みたいに、ただ快いことをして目立たずに暮らす幸せを見つけたような感じですが、ことさら共同体の最も平凡な個体であろうと努力を続けない限り、あるいは努力を続けていても、いつの間にか外れる個体になってしまうリスクは多くの人にあると思います。たとえば加害者、加害者の家族、被害者、被害者の家族などの形で犯罪に巻き込まれるとか。自然災害や人災でも同様のことが起こりえます。
主人公の宿主の状態は私から見れば「上がり」なので、彼がなんか希望のようなものを見出して積極的に動き出そうというかすかな気配を見せてることがちょっと驚きだったんだけど、人生のいろんな段階の順番は人によって違うのかな。
とにかく朝井リョウってすごいな、読ませるなうまいな目の付け所もするどいな、と思った作品でした。
