<若干くわしくストーリーにふれているので、まだこの本を読んでない方には以下を読むことをお勧めしません。まっさらで読んだほうが絶対面白いと思う>
「死んだxx」シリーズがどれも面白かったこの著者の最新作。今回は誰も死にません。ふしぎな五角関係、いや、愛情の矢印の起点と終点は毎回一致するわけじゃないけど、誰かが次の人を深く強く愛しても受け入れられない、人々の物語です。
死んだシリーズ最初の「山田」は明るく魅力的な人気者だけど、誰にも見せない顔もあった…。山田の普段の人気者の状態が、今回の「竜平さん」に重なります。彼以外の主人公たち(この本の体裁は短篇集で、それぞれ同じ世界線上の別の人物を中心として描かれています)は誰かに激しく恋をして、失い、奇跡の再会をとげ、玉砕、そしてやっと自分の道を歩き始める…。
感情の大爆発の度合いはいままでの作品よりマイルドだけど、その後の明らかな成長にかるく触れているのが、救われます。ものすごくざっくり言うと、ウックツしてしまった愛は一度爆発させていい。させたほうがいい。それでも世界は終わらないし、出し尽くした自分を世界は受け入れてくれる。
ところで私は人に「キモい」が言えません。気の毒すぎて、呑み込んでしまう。大勢の中で「xxくんはケイコさんのことが好きなんじゃないの?」などからかわれて、やめろ!ありえん!と思っても、それを言うことが相手のプライドや社会的地位に傷をつけてしまうんじゃないかと勝手に気を回してしまう。相手より、無責任にはやしたてる人たちや、それを聞かされている人たちの意識のことを考えたら、自分たちを守るために何か言えたのかもしれないけど。…ということで、この本の中で、誰かを横恋慕している人たちが、自分に横恋慕している人たちに間髪いれず「キモい」が言える心理はよくわからんのです。自分が言われてイヤなことをわりとみんな平気で他人には言えるものなのかな。自分を思ってくれる人はいい人だ、その気持ちは尊い、と思ってしまうのって、この本の中の竜平のようですね。彼には「失礼のないように自分の気持ちを他人に伝える」ことができるけど。他人とのかかわりの中で自分を肯定できるのって、生まれつきなんだろうか、それとも後天的なものなんだろうか。など考えながらこの本を閉じようと思います。
