この著者の作品、3冊目です。
この人の本って、刺激もあるんだけど、どこか繭の中に包まれてるようで、危険を感じないで少し距離を保って読めて、快適なんです。体温が自分に近いような。
1つずつ書いてみます。
片翅の蝶・・・兄が離婚したけど、子どもを引き取って育てている元義理の姉とは連絡をとりあっている。子どもが残していったサナギが羽化して、男はその様子をマメに子どもに連絡する。彼がついた小さなウソは、子どものためにがんばったように見えるけど、それとは全然関係なくて、何か足りてない男が自分の何かを埋めようとしたようにも見えます。
下品な男・・・たまたま入ったバーで話しかけてきた下品な男。下品というのは面白くもない、ちょっと不快なだけの下ネタをまぜて話をしたがる。これ面白い。謎に下品で自慢話の多いおじさんっていたな。ちょっと度を超えてるんだけど、このまままあまあ勝ち続けていくつもりなんだろうか、いけるもんなんだろうか、心配なような、あまり関わりたくないような気持ちでいたけど、今になってみるとちょっと懐かしい。
関係のないこと・・・学生時代の”スクールカースト”のちょっと上めにいたやつと、そいつがカジュアルに見下していたやつ。数年後に出会ってもみんなそれを引きずっているような。なんとなく不安で、ちょっとイヤな感じ。
扉・・・「たぶん結婚することになる男」といるんだけど、そいつと結婚するために何かアクションをとるわけではなく、自分は運命の波に乗っかって流れている。強い意志を見せず、観察者の視点で主役をつとめるのが、この人の作品の主役なんだなぁ。
おそらくは、たぶん・・・「下品な男」のバーだろうか、全然関係ない別の店だろうか。そもそも、こういうバーに一人でお酒を飲みに行くことが若い頃はあったけど、今はなくて、バーに行ったときのお酒の香りやけだるい快適さをもう忘れかけてる。そういうのを思い出しながら読んでも、なんかちょっと懐かしいような快適さがあります。
