面白かった。読む前からなぜか「東京タワー」みたいな、私小説っぽい感傷のある小説かと思って、いらいらしてないときに読もうと数日寝かせてしまったけど、全然そんなんじゃなかった。登場人物たちはわりとぐだぐだ考えあぐねるんだけど、それほど粘着質ではないし、だいいち短編集だ(中編集のほうが合ってるかな)。
「富士山」はマッチングアプリで出会ってちょこっとだけ付き合った男について回想する。「息吹」は大腸がんがたまたま見つかったか、見つからなかったか、というパラレルワールドが展開する。これ読んだ人の何割かは、検診を申し込むんじゃないか(私も真剣に調べ始めた)。「鏡と(ドガの)自画像」は、「金閣寺」の主人公が現代に転生したみたい。「手先が器用」は、ここまでこの本でずっと書かれていたような気がする、悪い因果応報とは逆の、ほっとするような短編。で最後の「ストレス・フリー」は、私も若いころはけっこうイライラして親しい人たちに本気で転嫁してしまっていたなと思い返す。今の私はストレスフリーなルーシーに近い。フルタイムの仕事をしてないことで、確実に精神衛生が向上してる。
なんとなく、この著者とはあまり相性が良くないんじゃないかと不安だったけど、面白く読めました。(「あの本読みました?」に何度か出てたし、私の中では「テレビに出てる人っ」ていうイメージになってきてる)
