鈴木悦夫「幸せな家族 そしてその頃はやった唄」1174冊目

独特の、マザーグースとかグリム童話のような味わいのある作品でしたね。面白かったけど、怖くはなかった。犯人も最初からわかってた感じ。動機がわからないという話もあるようだけど、これはサイコパスによる猟奇殺人みたいなもんだから、殺人に至る感情の部分は理解できなくてもまあそういうもんかと思いました。

最初に児童書の同人誌に連載されたのが1983年か。ニューファミリー流行りの「戦後はもう遠い」っていう時代より後、バブル真っただ中じゃないですか?世の中が浮かれてるときには、こういう焼けた石を投げこむような作品が逆に生まれやすいような気もします。

それより、元になった「その頃はやった唄」のほうが気になりますよね。だって小説はほとんど歌の通りだから。「そして誰もいなくなった」よりもっと元唄に忠実。この詩を書いた山本太郎という人は何者なのか。Wikipediaでは”戦前右翼の母体となった団体のメンバー”とありますが、あまり詳しい情報は載っていません。この詩が掲載された単行本、自費出版で350部だけ発行されたという「覇王紀」を検索してみると、ハードカバーの叙事詩だそうで、カバーをとった表紙には子どもの書きなぐったような絵(あるサイトによると、著者の娘さんが2~4歳のときに描いたものとのこと)があって、すでになんか怖い。350部しか発行されなかった本が、メルカリで今も2000円とかで売られてるのって信じがたい…復刻版とか普及版がその後発行されたのかな?言及しているサイトを見ると、どれも彼の詩を高く評価していて、高村光太郎賞なんかも受賞してるけど、かなり過激な思想家にも見えます。

この歌、この小説の公式サイトで全編聞けます!私自身は、詩のなかの「チチチ」が妙に気になって仕方がありません。昔の「明治ステップ」というミルクのCMでチ・チ・チ・め~いじステップ、チ・チ・チ・と繰り返す歌があって、チチチの語感の良さや、永遠に繰り返す感じが妙な雰囲気だなと思ってたのを思い出してしまいました。

それにしても、居残り続けた撮影隊の目的は、ワイドショー的なものだとしたらすぐにわかるだろうから違うとして、壊れていく過程をずっと見守って記録していたとしたら、それはそれで問題で、警察は何やってたんだって話ですよね。リアルなミステリーとしては到底読めない、ダークファンタジーというかマザーグースの世界に、なぜかテレビクルーが入り込んでいるのは、著者が現実世界でテレビの世界で仕事をしてた影響と思われます。この小説書きながら「おかあさんといっしょ」の脚本を書いてたとしたら、トラウマ級に怖いな…。