面白かったけど、前作同様、読みづらさはあります。今回は、ネーミングではあまりひっかからなかったけど、この本を読むうえで持つべき知識というか”教養”のレベル要件が高すぎて、(そんなこと普通に話されても…)と思いながら読み進むしかありません。いいんだけど、山のような脚注が欲しいような気もする。(cf.バブル期の田中康夫「なんとなくクリスタル」)
前回はゲーテについて調べまくる小説で、登場人物は男性多めだったと思うけど、今回は女性だらけです。書いているのは若い研究者の男性なのに、まったく違和感がなくて不思議。女性多めの家庭で育った人なのかな~。主人公の作家、その同居人、編集者、姉、母、それぞれが、彼女たちらしく誠実に生き方を模索する姿に共感します。
今回のテーマは、『自伝を書くべきか?書くとしたらどんな自伝を書けばいいのか?』が、一つの謎のように提示されます。こういうのもミステリーと呼んでいい気がしてきます。作家が探索するのは彼女が今までに読んできた数々の自伝や、編集者が送ってきた自伝、それから自分自身が何度も書いては一から書き直してきた日記や自伝のたぐい。その途上で編集者や姉との会話を深め、不在の父について思い、病気の母を訪ね、自分の内面に深くもぐりながらまた試行錯誤を続ける。大変なおしごとだな…。
そんな彼女たちなので、教養レベルが高すぎて、何度もいろんなことをググりながら読んでしまいます。しかし文中めったに誰も「それ何?」と訊かず、するする流れていく感じ、前作でも同じようなことを思ったけど、すごくアカデミックな家庭の一員にでもなったかのような不思議なあたたかさを感じてここちよい。※これ一瞬だからいいけど、本当にこの家族のだれかとずぶの素人が結婚したりしたら、ものすごく劣等感まみれになるはず…
でこの著者は、この先どういうものを書くんだろう?注釈なしでずっとこういう玄人向けっぽい本を書き続ける、とは限らないかも。前作でも今作でも、フィクションを書くというプレイを楽しんでるような感じがあって、ボルヘス「砂の本」みたいだけど、実験的という意味では、筒井康隆みたいな方向に進んでいくことだって可能。でも著者は今も、フィクションを生み出しつづけることを生業だと思ってない印象があるので、自分が書くものも含めてフィクションを斜め上から見ながら、ど真ん中の創作ではなくその周囲をずっと漂い続けるのかもしれません。
この本、注釈付きバージョンないかな。Kindleとかで。ざっと読み終わったあと、彼女たちの今までの文化的生活を深読みしながら読んでみたい気もします。
