ブレイディみかこ「転がる珠玉のように」1192冊目

「gem」を「珠玉」と訳して付けられたこのタイトル。gemは「hidden gem」という語をよく見たので、宝石ではなくまぁ“貴石”ていどの石で目立たないやつ、という意味かなと思っています。職場のジェムは、ぜんぜん出世しないけど丁寧でいい仕事をするやつ、表彰とかされないけど、黙って上司のミスをカバーしたりしてるやつ、というイメージ。日本人がなりがちなタイプかも。でも、彼ら(あるいは私たち)が、天動説を知らなかった昔の人がイメージした地球を下から支える象みたいに、さまざまな日常を少しずつ破綻から守ることで、この生活が保たれてるんじゃないかな、と思います。

みかこさんの本はいつも面白く、しんみりと共感して愛読していますが、しばらく間が空いてしまったこともあり、コロナ渦まっただなかに書かれたこの本は一昔前のものに思えてしまいます。彼女もそのご家族も少しずつ年を取り、あちこちが悪くなったり、深刻な病状に陥ったり、年月を経てこちらの人ではなくなったり。私たちと同じように。

私は心配するような家族がいなくなってずいぶん時間がたつので、読ませてもらいながら、あるいは友達の家族の話を聞きながら、勝手に自分も遠い親戚みたいな気持ちで、しんみりと温かい気持ちになっています。

この人には本当に文才があるなぁ。文才というのは、大学で文学を学ぼうが学ぶまいが、関係ない才能(努力をともなうけど)なんだろうな。そういえばこの人も、私が長年愛読している村田喜代子と同じ、福岡出身の高校卒業の作家だ。実家がもうない私は、みかこさんほども九州に帰っていないけど、自分がこれからの時間をどうするか?と考えるときに、自分が今まで過ごしてきた時間を、もう一度ちゃんと振り返ってみようかなと、思ったりしています。