あー実にいい本だった。文庫本で475ページもある大作なんだけど、まったく飽きずに読ませます。この著者の「心淋し川」を以前読んだんだけど、あれもすごく地味なのに自分も横丁で一生を送ったような、ちょっと切なくあたたかい充足感のある本でした。
時代劇ではあるけど舞台は蝦夷でアイヌ語も多く登場します。エンタメ性もあるので、昨今の人気作品の流れで読む人もいるかもしれません。
この本の場合、”里芋に黒豆で2つ目をくっつけたような”素朴な容貌の最上徳内という主人公のまっすぐな誠実さにすぐにほだされて、彼と、彼が大切に思う人々の幸せを祈りながら先へ先へと読み急ぎます。
徳内って実在の人物なんですね。写真はないかもしれないけど肖像画は残っていて。この本の中の彼はかなり、日本人が愛する典型的、あるいは理想的な日本人像だなと思います。すごく頭がいいけど身近な人々への愛の方が先に立つ。欲がなく腰が低く、涙もろい。自分が得をするための計算ができないので、周囲の頭のいい人たちがつい手を差し伸べてしまう。…差し伸べるほうの人がいる前提でなければ、ここまでのお人よしは名を遺す機会もないだろうなぁ。
