中勘作「銀の匙」203

なんか本ばっかり読んでる。

この本は、作者が自分のしあわせな子供時代を懐かしんで、その頃のことを子供の絵日記のように書いたもの。読書家を自称するような人はみんな読んでる本、読まなきゃいけない本、らしい。当たりをつけて本屋の店頭で探したら、あった。そのくらい今でも名作としてはメジャーなのだ。読書家以外は誰も知らない作家じゃないかと思うけど、たしかに読んでみるとなんだか味がある。文章ってのはこういうふうに書くのか、という勉強にもなりそうだ。きわめて平易で人のぬくもりや心が入ってる。1900年あたりの、ちょっと裕福な東京の山手の子供の生活がわかる。

どういうわけか、誰かの「私の履歴書」(ご存じ、日経新聞に連載してる会社社長やもと首相や、その他もろもろの偉い人の回想録)を読んでるような感覚もある。弱虫だったわたしがやさしい叔母に大切に育てられ、学校に入ってやがて主席のガキ大将になり・・・。その後大会社に入社して苦労して社長にでもなれば本当に「私の履歴書」だけど、この作品は17歳のときで終わっている。相変わらず憂鬱症ですぐ大泣きする少年が、その後どういう生活を経て物書きになったのか、すこし気になります。

解説(by和辻哲郎)にも書いてありますが、夏目漱石が絶賛したという、大人の手を経ていると思えない子供そのままの視点がみずみずしい一方、集中力と紙一重の「行く道の狭さ」がユニークです。そんな子供がその後どういう一生をおくったのか、興味がでてくる。この感受性、社会に背中を向けて虫や草花とともにあろうとする姿勢が、私の大好きな絵本画家の熊田千佳慕にも似てる気もする。

でも他の作品までは読まないかなぁ、多分・・・。

以上。