鶴長鎮一「Web技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書」1066冊目

もうITに関わる仕事をすることはないと思ってたけど、ちょっと関係がでてきそうなので、15年も前に後にしたこの業界のことを今いっしょうけんめい思い出そうとしています。で、まずはこの本。

この業界でまた働こう!という必要がないので、気楽にぱらぱらとめくって、用語をたどる…これってどういう意味だっけ。それは何の略?……と記憶をたどる。なるほど、なるほど。短期間だけどWebコンテンツを管理する仕事をしたので、この本に書いてあることはだいたい(ぼんやりと)理解できた気がします。さて、このあとはもっとインフラに近い難しそうな本もパラパラ見てみよう。

 

 

水見はがね「朝からブルマンの男」1065冊目

Audibleで推してたので聞いてみました。面白かった。

ある喫茶店で、開店とともに入ってきて毎週ブルマン=ブルーマウンテン、どこの店でも一番、とんでもなく高価なコーヒーの銘柄を注文する男がいる。なのに、毎回貴重なブルマンを一口飲んだだけで残す。店でバイトしている学生がその理由をいぶかる。…学生ミステリーでありながら、謎解き、暗号の要素もあっていろいろ楽しい作品です。

謎は、長年ミステリーを読んでいれば解ける人も多いかも。でもそれで魅力が減るということもなさそう。こういう読後感さわやかな作品は、どんどん書いてほしいですね。

 

大井優子「世界恐怖旅行」1064冊目

タイトルだけ見て、ひげもじゃの男が麻薬地帯やギャング街をめぐるのかと思ったら、若い女性がバックパックひとつで世界を旅してまわる旅行記でした。とても面白かったです。でもずっとモヤモヤする・・・

私が一人で海外を旅行するようになったのは中年以降で、順番としてはパッケージツアーや出張→フリーツアー→安全性の高いホテルと都会の街歩き→安いフライトと安いホテルと現地ツアー、という順番で、安全性を確かめながら徐々にコストを下げて自由度を上げていったのですが、大胆だとか無謀だとか言う人もいました。そんな私から見てもこの方の旅行は見ていてハラハラします。毎回無事に帰国できたのは、運命の神様の思し召し以外のなにものでもないような。。。

はたから見ると、同じように向こう見ずに見えるであろう私と著者。

著者に対しては共感というより心配したり「すごいなぁ」と思う側に回ってしまう私。

自分の立ち位置がグラグラだから、モヤモヤするんだと思います、多分。それに、中高年の今の私としては、もはやどの町に行っても出歩くのは昼間だけ、夜歩くのはガイドつき「食べ歩きツアー」くらいで、どんどん安全度を上げて危険度を下げていっているので、この著者の若さがまぶしい・・・。

年明けに久々のヨーロッパ旅行を予定してるんだけど、冒険を恐れる気持ちと、なかなか行けないのであちこち回りたい気持ちが拮抗して、全然計画が進みません。最近英語もほとんどしゃべる機会がないし、さてどうなることか・・・。

 

伊坂幸太郎「PK」1063冊目

この人の「フィッシュストーリー」がとても好きで(映画しか見てません、すみません)、この小説はそれを思わせるタイムリープものだと聞いてわくわくしながら読みました。

最近他の作家の小説をたくさん読んでるけど、久々の伊坂幸太郎、やっぱり面白い。なんとなく、青春的な、若くてきれいな期待感が湧いてきて、読んでて気分がいいのです。

「PK」「超人」「密使」の3パートに分かれていて(別々に書かれたので短篇3つとされているようだけど、私にはこれはこう見えた)、それぞれに、未来からカタストロフィを回避するためにやってきた”密使”や彼らによるなにかの操作の結果が描かれているんだけど、未来も1時点ではなくて、xx年先の未来とxxx年先の未来の密使どうしの行いが拮抗していたりする。「TENET」みたいだ。(PKの方が早く書かれてるけど)

読後、ネタバレブログを読みあさってみたけど、つながらない、わからないことはたくさんある。「PK」でPK決めたプレイヤーとその幼なじみ、大臣が比較的早い死を迎えるのは、xx年先の未来の密使の操作によるもので、その後xxx年先の密使が来ることで彼らは寿命を全うしたりしたんだろうか。その辺のつながりがわからないままだった。いいけど。

ここで「いいけど」と言い切ってしまう私は、深読みが好きなようで、転がされる快感を楽しめればいいという浅い読者なんだろうな・・・。最近は、すべての伏線が美しく回収されることに、あまり関心がいかなくなった。完璧な小説より、快感を与えてくるものを喜ぶようになった。少年少女は先が長いから、そうはいかない、私は中高生の頃はあらゆる行間を埋めるような本の読み方をしてそれを楽しんでたと思うけど、今はもうすべての謎は解かれないまま私は寿命を迎えるんだろう、そのうち、と思ってる。

だからもしかしたら、全部埋めることが難しそうなこの小説は、中高年(「中高生」ではなく)が楽しんで読めるのかもしれない・・・いや、自分ひとりの読書体験を普遍的なものみたいに書くこと自体、無理があるか。

 

 

道尾秀介「N」1062冊目

どこから読んでもいい小説、と評判になっているというので読んでみました。1つ1つの短編が面白い。それぞれが関係しあっていて、同じ人が出て来たり前後関係があったり。しかしじっくり各短篇を読んでしまうと、つながりを気にせず味わってしまう。これは、内容を無視して一度分析的に読んでみないとだめかも。

中心をとおっているのは、海に広がる5枚の花びら(「天使の梯子」)と、ルリシジミ(蝶)かな。

解説サイトをいくつか読んでみて、特に”謎が解けた”ということはないけど、なんとなくロマンチックな、解決はしないけどちょっと切なく美しい何かでみんながつながっているという気持ちで、少ししんみりします。作りは実験的だけど、しみじみ読んで、気が向いたらあとで答え合わせをしてみればいい本なのかなと思います。ほかにもこの人の本、読んでみよう。

 

カレー沢薫「ひきこもり処世術」1061冊目

この人のマンガは「クレムリン」の第一回が雑誌に載ったのを見て衝撃を受けて以来、ずっとちょいちょい読んでる。マンガも面白いけど文章も面白い。この本についてだけいうと、連載なので毎回最初のほうに、自分が長年のひきこもりであることや、その当時のコロナ禍の日本がどういう時代にあったか、といった説明があるのが、全部通しで読むとちょっとめんどくさいけど。あと、一文が長くて意味が多いので、するする読めない。全部面白いんだけど。

この人が原作の「ひとりでしにたい」もちょっと読んでみたんだけど、自宅で孤独死して液体になりたくないというのは、私が長年思ってることと同じだ。私は昔から1人で過ごす時間が長いほうだけど、実はかなりおしゃべりで、今やっている教師の仕事はこの歳になって初めて気づいた天職だったかもと思っているし、一日ずっと家にいると腰が痛くなって夜からでも散歩に出るけど、悩みは同じだ。(私も、いつもこうやって長い文章を書くし、一文が長いし、本当は似たタイプの人間なのかな)

いや、友達が近所で飲んでると聞くと、仕事を放り出してすっ飛んでいくし、旅行するし、新しいことを始めるのは常に楽しいからきっと違うな。

この本を書いたのはちょっと前なので、最新作も探して読んでみよう。

 

麻布競馬場「令和元年の人生ゲーム」1060冊目

こう見えて(どう見えて?)私は、ビジネススクールとやらを卒業している。かなりドメスティックな学校だったとはいえ、そこではカタカナ用語でビジネスを分析すれば成功するかのような会話が行われていたものでした。それが20年近く前だ。その後、外資系企業を辞めて日本の会社に移ったら、それらすべては義理人情や個人的な恩義と怨恨で置き換えられ、カタカナとテクノロジーに対するヘイトが横行していた(っぽい感じ。かなり大げさに書きました、すみません)。

そんな時間を経て、ビジネススクールで学んだことは仕事には全然役に立たなかったけど、外資系企業のアメリカ本社では、その言語をしゃべれることであやうく出世しかかったり(すぐにメッキがはがれることが見え見え)、各業界の各社から来ている学生の顔色や元気さを見ているだけで、株価の上下が予想できるようで、いろいろな意味で社会勉強になったと思います。

そんなすれっからしの私がこの本を読むと、まだこんなことに血道を上げている人がいるのかなと思ったりしたけど、最終的に、実力があるけどビジョンがない「沼田」が消えたあたり興味深いと思いました。でもどうしても理解できないのが、著者のいう「ふまじめな考え」vs「まじめな考え」って部分だ。彼から見ると、銭湯の再生をはかってたはずが、家族を持ったことで収入の重要さに気づいて、湾岸に移転して新しいスーパー銭湯を作ることにしたのは「ふまじめ」らしい。ならばまじめというのは、どんなに燃料代が上がって客足が遠のいても、決められた料金で毎日営業をつづける、昔ながらの銭湯をつづけることなのかな。家族を養うことのほうが大事じゃないのかな?日本語教師仲間のなかには、この仕事が大好きだけど、離婚して子どもを一人で育てることになったとき、この仕事ではやっていけないので、給料のいい仕事に転職したって人がいて、私はすごく尊敬してるけど、そういうのは教師という仕事に対しては「ふまじめ」だとでもいうんだろうか?(その人は定年後この仕事に戻ってきたけど)。

そういう部分が、飯を食って健康に生きていくことより理想を重視する、不必要な原理主義のようにも感じられてしまう。

仕事なんて何でもいいんだよ、少なくとも私はたいがいの仕事に対して一生懸命になれる、働くこと自体が好きだから。

この本はとても面白かったけど、これは皮肉なのか、何なのか?私はものごとの隠れた意味を読み取れず、言葉通りに受け取ってしまうことがあるので、読み取れていないのかもしれません。他の本も読んでからまた感想を書きたいです。