朝倉かすみ「けんぐゎい」1300冊目

これが「平場の月」を書いたのと同じ人の作品だなんて、なかなか結び付きません。あの小説は、中高年のしずかな恋愛を描いたしみじみと読まれそうな作品でした。こっちは「ババヤガの夜」とか「ハンチバック」とかの仲間って感触があるんだけど、思い返してみると「おしん」のような不遇な生い立ちの女性の成長物語でもあります(なんてざっくりとした分類だ、失礼な)。

ただ、著者とそれほど年齢が違わない女性である私としては、どちらも関心範囲を書いてるなという感じがあって、そういうわけで両方読んでるわけです。

前半は差別を受けたり虐げられて当然、と扱われる女とその周りの女たちの物語なんだけど、後半は彼女たちが団結する場面もみられます。

重い病気のあとに皮膚に症状が残ってしまった主人公を”てごめ”にする男。彼の言い分の中で、見た目だけでなく「賢さ」も差別要因として挙げられてるのがとても興味深いし、今これが書かれる必要があった、という気もしています。平均より劣っているから、のほかに、例えば目立つ美人だったり成績が一番だったりお金持ちだったりということでイジメを受ける人はかなり多数いると思うので。コンプライアンスがうるさく言われるこの時代に、いろいろな平均以下の要因で人を攻撃すると自分が悪い人みたいで気分が悪い。弱い者でなく強い者なら気持ちよく、良心の呵責なく攻撃できる…という状態にある人が、ネットには大勢いるように思います。そして、攻撃される側は、保護を求めにくく理解を得られにくいこともあるんじゃないかと心配です。

「強い」作品だな、と思います。エネルギーを感じます。諦めない主人公とその周囲の女性たちに共感をおぼえます。若干、内容も使われている語彙もユニークで、とっつきにくいと感じる人はいるかもしれません。私はAudibleで聴いたのですが、むしろ漢字表記を意識しない方がすっと頭に入ってくる部分もあったかも。

ナレーターの寺田早輪子さんが非常にうまい!女性が大勢出てくるのに、全部声色だけで誰だかわかるんですよ。主人公は冷静沈着で知的な女性だけど、素朴なお手伝いの人たちもまるでその人が話してるよう。そういう彼ら彼女たちの純真なやさしさや愛情にうるっとくる場面もあったり。ほんとに語り手って大事だし、この作品はこの方が語ってくれていることであえてAudibleで読む価値を上げてると思いますよ。おすすめです。

 

中山七里「刑事葛城 正義の銃弾」1299冊目

「あの本読みました?」の次週予告にこの本が映ってたので、さっそくAudibleで聴いてみました。個人的には、あんまり刺さらなかったかな…。テレビの1時間半ドラマとかで見たかった感じ。ひねりまくった小説ばかり読んでるからかもしれないけど。出演者の魅力とか映像の力とかをプラスして、週末に見るエンタメ作品として仕上げてもらえたら、けっこう喜んで見てしまうかもしれません、私の場合。

 

エリーザー・ユドコウスキー 、 ネイト・ソアレ「超知能AIをつくれば人類は絶滅する」1298冊目

広告をどこかで見て、煽ってるなぁと思いつつ真実も含まれてるような気がして、すぐに買いました。文章は平易で素人にもわかるように書いてくれているんだけど、足踏みしながら同じことを何回かずつ語るかんじの文章で、自分の場合あまりスルスルとは読めず、途中で放り出していました。数日前にこれがAudibleで公開されているのに気づいて、聴いてみたところ、こっちの方が入ってくる。この本の場合、脚注やQRコードで見るウェブサイトとかがあるので、手元に紙の本(Kindleでもいいと思うけど)を置いて、適宜参照しながら聴くのが、私には一番合ってるようです。Audibleにも添付pdfがあるけど、だいたいみんなスマホで聴くと思うので、pdfのQRコードを読み込むのがちょっと面倒だったりもします。

工学的とか遅発とか藻とか共闘とか、漢字でどう書くのかなと思いながら聞くとちょっと音声に後れをとってしまったり、ガルヴァニックとかセイブルとかのカタカナ語の造語などは、慣れるまでは文字もあったほうがなじみやすかったり。

内容は、なんとなく、ノストラダムスの大予言とか、東海トラフ地震を予想した本みたいな印象で、十分にありうる”最悪のシナリオ”に青くなりつつも、それがいつ起こるのか、避けようがあるのか、ないのか、素人の私にはわからず、やたらと不安をあおられてしまった感じです。

あおりを全部削除したら厚さ半分くらいになるかもしれないけど、縁が黒い「絶滅に至るシナリオ例」のページの内容はなかなか壮絶で、ちょっとくどく何度も説明してくれなければちゃんと頭に入ってこなかったかもしれません。(だからこの文体はこの内容を語るうえでは正しいと思います)この章のページの縁が黒いのとか、紙ならではの演出でもありますよね。

今これからIT業界で働こうと考えている人たちは、みんなAIのことを積極的に学んでるところではないかと思いますが、未来のリスクは突端にいる人にしか見えてないのかもしれません。

そもそも、人類が絶滅することは、本当にAIにとって得なのかな。ソフトウェアが稼働し続けるためにはハードウェアが必要で、作るだけじゃなくてメンテが大変。CPUとかGPUとか躯体だけじゃなくて発電とか。それでも外とのインターフェイスが足りないので、人間の感覚器に取って代われるほどのセンシングデバイスを取りそろえる必要がある。取って代われないなら、AIのために何でもするわずかな人類だけは残すとして、必要なのは発電所を作ったりメンテしたり、自分たちの衣食住を保てるほどかなり知性や技能をもつ健康な人たちとその子孫で、みんなそんなに都合よくAIの言う通りになるんだろうか。それとも、戦争に突入するときの人類みたいに、破滅だとわかっていても走り出したら突き進んでしまうんだろうか、AIでも?

この著者が提唱しているような、AIの開発にブレーキをかける国横断の団体を作っても、危険思想の大富豪が勝手なことをするだろうし。いよいよ正義の味方VS悪の帝国、007かヒーローアニメみたいな様相になってくる。

知った上で生きていくのか、知らないほうが幸せなのか。地球にも寿命があり人類は永遠に繁栄するわけじゃないことはみんな漠然と知ってると思うので、たぶん何の貢献もできない私はぼんやりと不安を抱えたまま生きていくしかないのかもな……。

塩田武士「踊りつかれて」1297冊目

この著者の「罪の声」はすごく面白かった。これもまた、すぐに引き込まれて一気に夜中まで起きて読み切ってしまいました。

冒頭の、匿名のネット発言者たちに対する告発のような強い宣言が、まず強烈に響きます。ネットで知らない人たちが強すぎる言葉で誰かを責めることばを見ると、気分が悪くなって閉じてしまうのに、なぜかこの言葉が自分にも刺さる。ぜったいに口には出さないけど、心の中に怒りを持ち続けてるのかもしれない、私も。この登場人物のなかには、澄み切った美しい笑顔の人が何人か出てくる。彼らは少なくともそのとき、心の中で悪態をついたり、うらみつらみで自分のストレスをごまかしたりしてない。私は彼らみたいな心からの笑いを笑えてるんだろうか?

温厚で面倒見のいい紳士である、冒頭の投稿者が、長い時間のなかで何を経てそこに至ったのか?が、その後最後までじっくりと語られます。が、いろんな仕掛けの多いミステリーを読みすぎていて、頭のどこかで「大どんでん返し」とか「血で血を洗うようなリベンジ」「道ならぬ恋」とかがくるかも、くるかも、と思いながら読んでしまって、最後に「すみません、私の心が汚れていました」と言いたくなる。

私も何度もデマに泣かされてきたけど、これが100%口コミだと、何の記録も残らないどころか、自分が何を言われているかもわからないまま、正体の見えない悪意とどう戦えばいいんだ?ということになってしまうんですよ。できることは、悪意が蔓延している場から、なるべく早く逃げることと、これから標的にならないように、目立たず出しゃばらず、無難さや平凡さを演じ続けることくらいだ。

戦うと決めたら、こういう修羅場が待ってるってことだけど、そこまで覚悟するのは愛だなぁ…。性愛ではなく、この本のなかで何度も語られる、ソウルメイトというかバディというか、特別な相手をいとしんで守り抜こうとする強い思い。そういう人がいるのに失くしてしまったら、自分を投げうってここまで強くなれるのかな。長年負け続けてしまうと、勝負しようっていう勇気が絶えてしまう。戦うエネルギーって尊い…。

現実に近いな、という印象があるので、読後感はかならずしも爽やかではないです。でも、読み応えがありました。

 

片岡たまき「あの頃、忌野清志郎と」1296冊目

このタイトルは「あの頃ペニー・レインと」が元ネタかな?あの映画の印象が残っているので、ノスタルジックで温かく切ない気持ちで読み始めます。こちらは、小学生の頃にまだマッシュルームカットだった清志郎に出会ってそれからずっと恋をしている(と言ってもよさそうな)著者が、大人になって本人の事務所で仕事をするようになり、RC活動休止とともに事務所を離れ、その後つかず離れずときどきまた仕事をしながら、最後まで身近なスタッフの一人としてかかわり続けたその40年間を、回想し懐かしむ一冊です。

清志郎は自分を愛し、もしかしたら崇拝していたかもしれないスタッフに囲まれて、あんな破天荒な感じだったのに、徹底的にさりげなく思いやり、あくまでも礼儀正しくいたようで、やっぱり彼も孤高の天才だったのかなと思いました。思いは熱いし言動は激しいけど、スタッフの協力を得ながらいい音楽、いいステージを作るうえでとてもクレバーだし、自分を律して弱みを見せない人だったようです。

私は中学生くらいのときにRCに出会ったのかな。それから活動休止の頃までスタジオアルバムは全部聞いてたし、タイマーズは学園祭で見たのをよく覚えてる。というリアルタイムのファンだったんだけど、休止後はぱったり聞かなくなってました。この本を読みながらSpotifyでRCをずっと流していたら、ボーカルがすごいだけじゃなくて楽曲もユニークで強いしサウンドもすばらしい。なんで聞かなくなってしまったんだろう?

今日これから彼のドキュメンタリー映画を見に行くんだけど、準備万端です。

今日初めて気づいたこと。彼のワードセンスはときどきすごく昭和だ。私はもうしないような言い回しがちょいちょいある。泉谷しげるや吉田拓郎や小椋佳や井上陽水よりレトロ。ちょっとおじいちゃんっぽくてなんかいい。

 

バリー・ユアグロー「一人の男が飛行機から飛び降りる」1295冊目

何で読もうと思ったのか思い出せないけど、じつに不可思議な小さい世界を描いた1~2ページのショート・ショートが300ページにわたって収録された本です。

あまりに不可思議すぎて、こんなに短いのに1つ1つを咀嚼して、休んでからでないと次が読めない。なんとも説明しがたい楽しみのある本なんだけど、返却期限が来てしまったのでいったん返します!

いつかまたじっくり読み返してみます。

 

今井むつみ「慶應大学SFC最終講義 人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学」1294冊目

さらっと読めました。「認知心理学」というお題目は難しそうでとっつきにくそうに見えるけど、常日頃感じていることを理論立てて話すとこうなるのね、と納得できます。

日ごろは、「どーして言ってることを言った通りに受け取らない?」といらいらすることを記憶しがちなので、過度な一般化はわるいことのように思っていたけど、一般化しないと言語は使えるようにならない、というのもその通り。その辺のさじ加減は経験からしか身につかないもので、いつまでも苦労する学習者は過度な一般化からいちばん遠いところにいる人たちなのかもしれません。

面白かったです。