浅生鴨「猫たちの色メガネ」570冊目

今まで読んだこの著者の本のなかで一番、「遠くに連れて行ってくれる」ような文学の楽しみがありました。それでも、なんとなく説明的で親切すぎて、もっとほったらかしにしてほしいような気がする。これはやっぱり、著者が長年関わってきたのがテレビっていう老若男女すべての人をターゲットとしたメディアだからじゃないか、と思います。テレビに罪はないけど、私はもう少し読者にゆだねてもらうことが快感なほうです。

浅生鴨「どこでもない場所」569冊目

エッセイ集。これも面白かった。

小説と同様、すごくまともなんだよね、話者の感覚が。変な人が変なことを言うとドン引きするし、面白いほう、面白いほうに行こうとあえて志向してるところが、その人自身はちっとも変な人ではない。Twitterで私が勝手に思い描いてたイメージとすごく違う。すごいなぁ。会っても気づかないと思う、こんなに面白いTweetをしたり、誰も思いつかなかった番組を提案したりする人だなんて。(ほめてるつもり)

ユニークなアイデアを思いつくエネルギーとか資質とか、誰にでも持てるものなんだろうか。私はユニークなものが大好きだけど、自分自身のアイデアはおそろしく凡庸だと思ってる。まあいいか、ユニークさを愛でる役割の人もいたほうがいいよね、ってことで。

浅生鴨「伴走者」568冊目

面白かった。前半はマラソンの伴走者、こっちはテレビで見たこともあってちょっぴりは想像できたけど、後半のスキーの伴走者は本当に驚き。どちらのストーリーにも心を掴まれてグイグイ読んだけど、

<突然ですが、以下ネタバレ>

どちらも読者が一番期待する幕切れにはしないところは作者らしさなのかな。前半は一位を逃し、後半は順位はともかく二人で寄り添って大会に出場することもなかった。それと同時に、すごく不思議なのが、そんな結末があってもなお、すごくテレビ的なわかりやすさが全体を占めているところ。この著者はNHK広報の頃からTwitterをフォローしていて、想像もできないようなユニークな視点がすごく面白いと思っていたので、小説が、変な言い方だけどすっごく普通でまともなのが意外に思えてしまいました。私が何か変な、ゆがんだ期待をしてしまっていたのかもしれないけど。同じ著者の「アグニオン」というSF小説を読んだときもそう思いました。

ユニークさをとことん味わいたい人はTwitterをひたすら見るか、彼のエッセイのほうを読んでみたほうが良いのかもですね。読んでみます。

西森秀稔・大関真之「量子コンピュータが人工知能を加速する」567冊目

おもむろに、量子コンピュータって?が知りたくなって借りてきました。

著者のひとり大関氏は数年前に、「量子アニーリング」方式の量子コンピュータの活用を促進する活動などを行うベンチャーを立ち上げたとのこと。基礎研究を続けること、それを実用化するための「出会い」、最初は完璧ではない技術を使っていくことで改善していくこと…などの重要性がこの本の中で語られていますが、それはまさにMOT=Management of Technologiesのキモです。

私のような、技術大好きだけどよくわからない、ただの一般コンシューマにとってみれば、技術を最初に発見した人、発展させた人、実用化した人が誰であっても関係ない。誰かが開発してくれればいい。ケンカするのは勝手だけど、コンシューマが買う価格が高くなったり、使いにくくなったりしないで、なるべく便利で安い技術が生活をどんどん便利にしてくれたらいい。…ゴールはそこなんですよ、実際のところ。

ノーベル賞を受賞するとものすごく嬉しいのは、研究にも勝ち負けがないわけじゃないから。でも、いいところは褒め合うとして、なるべくいいところで協力し合って、知識を出し合ってパテントプールとか作って、いい具合に標準化とかしてもらえたらいいな、なんて思います。

 

辛島昇「インド・カレー紀行」566冊目

楽しい本でした!

最近、毎日のようにインド・スリランカ・ネパールとかの”スパイスカレー”を食べてるけど、カレーの歴史とか種類って全然わかってません。この本によると「カレー」という言葉の語源は、実は「不明」だったり、ゴア州の「ビンダルー」カレーの語源はポルトガル語だったり。この本自体はかなり昔、1990年代に書かれた本だけど、基本のカレーのレシピがそんな短い期間で変わるわけもない。鰹節をつぶして作った魚のカレーとか美味しそうで…。

思い立って、コリアンダーターメリックとかのスパイスも買ってきちゃいましたよ。さて、どれくらい使いこなせるようになるか…??

高野秀行「アヘン王国潜入記」565冊目

本当のことほど面白いことはないね。事実より面白い小説はあるし、これが小説より奇なる事実かどうかは知らないけど、この本は最高に面白かった。 

だって東南アジアのどこかの国の一角に大きなケシ畑があったとしても、そこに自分が行って、違法なことを百も承知の上で、種まきから草取りから収穫まで手伝って、おまけに自分がアヘン中毒になって帰ってくるなんて。爆笑していいですか?(感動しつつ)

でもなんかものすごく共感もします。私も自分で行ってみたいほうだから。悪のなんとかを暴く、というより、そこにいて地元の普通の人として暮らすほど最高に面白い体験ってない、と私も知ってるから。

ああ…(ため息)…またどっか行きたいな…せめて国内…

川越宗一「熱源」564冊目

面白かった。すごい力作。アイヌの人たちが主役で時代は明治なんて、設定が斬新!と思いながら、三分の二くらいまで、まるきりフィクションだと思って読んでたのに、事実にもとづく小説だったなんて!という驚きも大きい。これ、「坂の上の雲」みたいに何回かに分けて、しっかり作りこんでドラマ化してほしい。

後から考えれば、そういえば南極探検隊に樺太の犬を連れて行った話は昔聞いたことがあったし、そもそもシベリアはロシアの流刑地だった。でも、ポーランド独立の祖となった人の兄弟が樺太で服役して、アイヌ文化を研究してアイヌと結婚していたこととか、アイヌが犬の係として南極探検隊にいたこととか、目からうろこが落ちるような「そうか!そうだったんだ!」が多すぎて、頭がくらくらしてきます。事実ほどすごいものはないですね、たまたま私が知らないだけで。市井の人の大冒険って、市井の私たちの胸の中のなにかを刺激しますね。それを著者は「熱源」と呼んだのか。

凍り付いた自然の中に、人々の中に、人々を駆り立てる「熱源」がある。「石光真清」の手記もすごかったけどこの本もすごい。リサーチや構成にどれほどの時間と手数がかかったか…。堂々の直木賞ですね。

数年前にユジノサハリンスクという、樺太(サハリン)南端の町に行ったら、がらんとして何もない、きれいな町でした。ロシアっぽさも日本っぽさもアイヌやギリヤークを思わせるものも何もない。そのつるんとした表面を掘り下げて掘り下げて、つながりを見つけていくのもまた「熱源」のなせるわざなんだろうな…。