2017-01-01から1年間の記事一覧

佐々木健一「Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男」463冊目

面白い。じつに面白いノンフィクションでした。これほど面白く読めるのは、盛り上げる構成力、力技がすごいからです。世の中には、流れを作るパワーを持つ人と、流れに乗る感受性のある人と、うまく乗れない人がいる。この作者は明らかに最初のやつです。事…

村上春樹「騎士団長殺し」460-462冊目

一応たしなみとして、村上春樹の長編は読むことにしてる。買うかどうするか毎回迷うんだけど、今回は発売半年後、十分価格が下がったところで古本を購入。図書館の待ち人数は400人台です。 以下ネタバレ。構成上のことをいうと、この本は珍しくパラレル構…

ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)455〜459冊目

読んだ〜〜。重かった。おもしろかった。ドストエフスキーって蠍座だよね。まさに蠍座的な作品だった。敬虔でありながら放蕩で、情愛深くかつ冷徹で、誰にも興味を持たず自分の不運を嘆きあげる人たち。特定の人だけにそういう特質があるわけじゃない。人の…

佐藤正午「小説家の四季」454冊目

このエッセイも、出てたことを最近知ったので早速買って読みました。「書くインタビュー」では書ききれない著者の日常のことや、そこはかとないユーモアが、このくらいのボリュームの文章だと自由に広がりますね。インタビューの方は精神的にあまりいい状態…

佐藤正午/伊藤ことこ/東根ユミ「書くインタビュー」(1〜3)451~453冊目

愛読している佐藤正午が、メールで若い女性ライターからの質問に答えるというか、書簡集を出しているらしいと知ったので、早速買って読みました。 文章教室みたいだ。1,2があると知らず3から読み始めてしまって、佐藤正午は若いライターに怒ってばかりのひど…

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」450冊目

この人もうまいな。佐藤正午(今や直木賞作家)がべた褒めするくらいで。しかし、この人の面白さは、やっぱり「ありそうにないことを組み合わせる」部分で、結末にもつれ込む上で、私としては特に含めてくれなくてもいいなと思うエピソードもたくさん、たく…

夏目漱石「こころ」449冊目

もう7月なかば。そろそろ、この先の生き方を考えてみなきゃと思って、こわごわ再読。実家にあった文学全集を何冊か持ってきてるので、常にこの本は書棚の奥にありました。(昭和44年発行) あらすじはおぼえてるつもりだったけど、主人公を「先生」と呼ぶ書…

早見 和真「イノセント・デイズ」448冊目

ビヨークが主演したラース・フォン・トリアーの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に匹敵する、アンチクライマックス。もう最近は、こういう小説を読んでも映画を見ても、ハッピーエンドなんて期待しなくなってる。多分私だけじゃなくて、たくさんの人が。 読み…

柴門ふみ「そうだ、やっぱり愛なんだ」447冊目

漫画家の柴門ふみが、長年雑誌などに書いてきたエッセイを集めた本。先日たまたま、彼女の夫である島耕作、じゃなくて弘兼憲史のトークイベントに参加したら、これが抱腹絶倒の面白さで、妻はどんな人なんだろうと興味が湧いてきました。 当たり前なんだけど…

鏑木蓮「京都西陣シェアハウス」446冊目

小説だったー。この3日間でシェアハウスに関する本を6冊も読んだんだけど、キーワード検索だけで借りたら小説も何冊か混じってたwでもこれが実に面白く深かった。読んでる間はちょっとギスギスした感じなのに、読み終わると清々しい。とても不思議な小説で…

宮本輝「草花たちの静かな誓い」445本目

「泥の河」くらいしか読んだことはないのですが、地を這うような生活をしている人たちに温かく寄り添う作家さんだと思っていたので、この作品のどこか軽く、明るい印象がちょっと意外でした。テーマは決して軽くないのに、カラッとした晴天の多いカリフォル…

佐藤正午「月の満ち欠け」444冊目

一番好きな作家の"20年ぶりの書き下ろし長編小説”ということで、4月発売だしそれなら大きい書店の店頭にあるかなと思ったら、1軒目にはなく、2軒目でやっと買えました。こんな新作があるなら、ゴールデンウィークは旅行しないで家でまったり読書でもすれ…

佐藤正午「ダンスホール」443冊目

また本を読まなくなった私ですが、久々に読み終えたのは、だいぶ前に買って読みかけてたこの短編集。この人の小説を読んでると神経が落ち着いてきます。東京とは違う時間の流れが、この人が舞台とする長崎なり福岡なりの九州の小都市にはあるし。バリバリ会…

ヨリス・ライエンダイク「なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?」442冊目

原題は「Swimming with Sharks: My Journey into the World of Bankers」、金融の海に飛び込んでサメどもと泳いでみた って感じでしょうか。 私はバブルまっただなかに大学を卒業し、成績優秀な学生の多くが金融に行った世代なんだけど、その後ベアリング、…

山口雅也「ミステリーズ」441冊目

珠玉の、抱腹絶倒の、短編集。1990年初頭にさまざまな雑誌に書かれた短編を集めたものだけど、Disc 1&2に別れて構成されていて、洒落ています(本当はこの年代の作家ならレコード盤の「Side A&Bにしたかったはずだけど、微妙にCDが幅を利かせてきた時代だよ…

有栖川有栖「江神二郎の洞察」440冊目

面白かった。この人の作品の一番力が入ってるところはいつも、「全員がアリバイがあるように見えるのに、犯人だけが殺人を犯すことができた。それは誰か、そしてどういう理屈か?」だと思う。動機を描き出すために長い背景を語ることが絶対必須ではないので…

有栖川有栖「鍵のかかった男」439冊目

これは2015年に書き下ろしで発売された作品。今までで一番読みやすかった。大人らしい抑えた文体だし、”鍵のかかった男”が重層的で興味をそそられます。宝くじ当選とか事件に巻き込まれるとか抑えた文体とか、私の敬愛する佐藤正午を少し思い出しました。 ミ…

山下澄人「しんせかい」438冊目

写真を先に見たからか、ずいぶん無骨なごっついオッサンだな、文章もおっさんっぽいなと思いながら読んでたのに、ある時点で不器用な少年が書いた文章にしか見えなくなった。 このおっさんのことだから、19歳のときも”紅顔の美少年”じゃなくておっさんっぽ…

有栖川有栖「月光ゲーム」437冊目

この作家のファンではないし、与えられた謎を真剣に解くこともせずに、ただ気軽に読んでるだけなんです、すみません。でも面白かったよ。3部作の中で、これが一番小説として楽しく読めた。まだ大学生の空気が作者に濃く残ってたからか、その場にいて自分も…

京極夏彦「魍魎の匣」436冊目

読んだー!重かったー!(※物理的に)1048ページ。いやー面白かった。最初は、旧仮名遣い文が混じるし、霊能者とはなんぞやとか、魍魎とはなんぞやとか、長い長い説明が面倒な気がしたこともあったけど、どんどんはまり込んで、後半は夢中で読み進みました。…

有栖川有栖「孤島パズル」435冊目

大学生の江神探偵シリーズ第2作。先に読んでしまった「双頭の悪魔」が第3作なので、順番間違ってる。しかし「双頭の悪魔」が分厚い力作すぎて個人的にはめんどくさかったのに比べると、こちらの方がシンプルで人間関係も納得しやすかったです。いくらトリ…

佐々木譲「エトロフ発緊急電」434冊目

面白かった。単行本、二段組、400ページ弱というボリュームで、謎解きのない冒険小説です。エトロフ島に住むロシア混血女性ゆき、日系アメリカ人二世で米軍スパイとなった賢一郎、彼を追う軍人磯田、南京で中国人の恋人を日本兵に殺された牧師スレンセン…

風間一輝「男たちは北へ」433冊目

1989年に発刊された小説ですが、グラフィックデザイナーを本業として、そのほかに飲み歩き関係の記事などを雑誌に書いていた筆者が初めて書いた長編小説だそうです。表紙カバー裏の写真をみると、ウイスキーらしきグラスを手にした無頼っぽい男で、野坂昭如…

有栖川有栖「双頭の悪魔」432冊目

この人の作品を読むのは久しぶり。本格的推理小説、「フーダニット」(犯人当て)の名手。以前は結構好きだった気がするんだけど、今回はそれほどはまらなかったなぁ、「このミステリがすごい!」人気リストを見て選んだんだけど。大人になりすぎてしまった…

水原秀策「サウスポー・キラー」431冊目

ミステリーなんだけど、完全に野球小説ですね。バタバタ人が死んだり、残酷な手法だったり、どろどろの人間の醜さを描いたりする怖いミステリーが多いこの世の中で、ほっとする作品でした。 この作品も、トリックの複雑さや動機の難しさがメインではなくて、…

ジェフリー・ディーヴァー「ボーン・コレクター」429〜430冊目

文庫本とはいえ上下巻あって、なかなかのボリュームでした。最初の誘拐の場面の後、首から下が麻痺した探偵という設定が理解できるまでに結構時間がかかってしまった。なるべき事前情報を見ないで読み始めるので、こういう苦労をしてしまうんだけど、これが…

浅倉卓哉「四日間の奇蹟」428冊目

とても丁寧に書かれた小説で、優しくて細やかな人が書いたんだろうなと思った。小説のなかで起こる「奇蹟」は美しい。面白い小説だった。けど、奇蹟が発覚して以降のヒロインが泣きすぎる・・・。元々それほど生に執着していなかった女性でも、パニックに陥…

キャロル・オコンネル「クリスマスに少女は還る」427冊目

なかなか読み応えがありました。女性らしい情感あふれるミステリーで、スリリングな構成も文章力も良くできていて、謎解き以外の部分で読み物としてもじーんとくる部分がありました。辛口コメントをすると、なにかすごく新しいものがあるわけではないのと、…

日疋信・日疋冬子「志集第56号 無風 その中の生と死」426冊目

乱読、というのはこういうのをいうのかしら。 おもむろに手当たり次第に、興味のおもむくまま本を読む今日このごろ。 通りがかった新宿西口陸橋下で、あの人が立って「私の志集」を売っていました。 私が上京した30年前から、ずっとそこにいる。Big Issue…

恩田陸「三月は深き紅の淵を」425冊目

長年にわたって多少でも本を読みつづけてきた人にはたまらない、読書のゾワゾワやドキドキやは〜~っ!がガッツリと味わえる、歯ごたえのある作品でした。この人の本読むの初めてだけど、すごく達者で自信にあふれていますね。私と同年代くらいだけど、才能が…