佐々木健一「Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男」463冊目

面白い。じつに面白いノンフィクションでした。
これほど面白く読めるのは、盛り上げる構成力、力技がすごいからです。
世の中には、流れを作るパワーを持つ人と、流れに乗る感受性のある人と、うまく乗れない人がいる。
この作者は明らかに最初のやつです。事実のレポートといっても、掘り下げてヒントを発見し、因果関係を見つけられる人、自分の感動を生々しく伝えられる人と、そうでない人がいます。「られる人」は、一般大衆に向けて、知られていなかった感動を与えられる。そうやって“流れ”まで変えてしまう。
(他にも「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」や「神は背番号に宿る」という本を書いて、日本エッセイスト・クラブ賞まで受賞してます、この作者)

私はあまりお題目が大きいと疑ってかかってしまう方なのですが、タイトル自体はいつも、引きはあるけど派手ではありません。そこも、うまい。「Mr.トルネード」とか「ケンボー先生」といった耳慣れないキャッチーな言葉。(なんだろう?)と手に取るわけです、チャンネルを合わせるわけです。(元々はテレビ番組)

トルネードさんもケンボーさんも、特段目立つされることなく、あることを極めようとした市井の職業人です。そういうのに惹かれますよね。地上の星。それにしても、作者の意図の通りに感動していく自分が操られているかのように感じられるときもあります。それが最初に書いた「流れを作る力」。取り上げられた本人は、自分で気づいていなかった魅力に注目されておもはゆい気持ちになるかも。