本)文学、文芸全般

津村記久子「水車小屋のネネ」994冊目

いい本だな。好きだな。 ここ数年、けっこう本を読んでるつもりだけど、この人の本は初めて読んだ。原作が映画になった「君は永遠にそいつらより若い」は地味に好きだったけど、その世界とこの本の世界は地続きなかんじがする。 たくさんの傷ついた少年少女…

伊坂幸太郎「マイクロスパイ・アンサンブル」992冊目

伊坂幸太郎読むの久しぶり。基本おもしろいはずなのでかなり期待して読んだけど、これはちょっと特殊な、猪苗代湖でのイベントのために書かれたもので、小説として全体の緻密な構成とか完成度を目指して書かれたものではなかった。 でも著者がTheピーズとTom…

村田沙也加「となりの脳世界」991冊目

面白い・・・しみじみ面白い。やっぱり面白い。 学校の先生は厳しい規律を強いておきながら「自由な発想をしなさい」「独自の考えを言ってください」という。もともと発想や考えが自由で独自な人は、規律に自分を合わせるのが難しい。両立させがたいものだと…

温又柔「私のものではない国で」988冊目

リービ英雄のデビュー作も読んだ記憶があるし、最近では李琴峰にはまった。どんな文学者が書いた日本語の作品も、自分とは違う言語センスを楽しめるけど、母語じゃない人たちの、私が使っている日本語からの逸脱はもっと大きくて、意外で、美しく感じられる。…

井戸川射子「この世の喜びよ」985冊目

”今どきの若い子たち”は、芥川賞受賞作品は読まないけど、本屋大賞受賞作品は喜んで読む、と何かで読みました。これは多分、読まないほうの典型例なんだろう。起承転結が、山でいうと公園の砂場の山くらいの高低差で、ツカミもオチもないしショックも感動も…

小川哲「地図と拳」971冊目

大河ドラマだった~~。 満州国っていう、日本の中枢にいた昔の人が勝手に夢みた国の歴史をたぐり、こんなことやあんなことがあったんじゃないかと想像して書かれた物語だった。 数々の窮地を逃れてきた主人公が、ふいに没する場面がちょくちょくある。年代…

大江健三郎「水死」969冊目

すごく面白かった。と書くと、最新のブログや動画が面白かったのと区別のつかない貧しい表現になってしまうけど、気軽に読み始めたのに謎の要素やストーリーの先が気になって、続きを読みたいから早く帰宅する。厚い本だけど、電車やバスに持って乗る。 一目…

ジョン・アップダイク「アップダイクと私」966冊目

ニコルソン・ベイカーの「U&I(アップダイクと私)」を読んで、そこから本物のアップダイクに来た。(これにもおおもとの「ボルヘスと私」があるとは知らなかった。読まなければ!) これエッセイと書評を集めた本で、「アップダイクと私」は、作家として注…

タラス・シェフチェンコ「コブザール」964冊目

不思議なことに、表紙にも目次にも作品解説にも、シェフチェンコのファーストネームが出てこなくて、年譜のページにやっと登場する。それくらい、シェフチェンコといえばこの人なんだろうな。ウクライナの偉人として広く尊敬されているらしい、画家で詩人の…

青山美智子「赤と青とエスキース」963冊目

これもだいぶ前に「一万円選書」で選んでいただいた本。 こんな人生があったらな・・・と想像して書かれたファンタジーだと思うけど、童話みたいに「若い二人は結ばれました、めでたしめでたし」ではなくて、紆余曲折もあり、なぜか二人は結婚せず子どもも持…

朝吹真理子「きことわ」955冊目

日曜美術館を見ていたらこの著者がマティス展で感想を述べていて、そういえばこの人の本を読んだことがないわと思ったので、読んでみました。これが2011年の芥川賞受賞作。 すっごく繊細な文章。書いている人と登場人物の感受性の強さに、自分まで神経が研ぎ…

都甲幸治「教養としてのアメリカ短編小説」948冊目

面白かった。 大学が英文学科だったので、アメリカの短編小説を「購読」の授業でたっぷり読まされたものでした。どれもけっこう暗くて、ちょっとホラーみたいな作品もあったな、人間って不思議だなと思ったりしながら、辞書を引き引きけっこう夢中になって読…

内藤陳「読まずに死ねるか!」947冊目

これ最高ですね。内藤陳は私の中では”性格俳優”だけど、デビューはコメディアンなんですね。みょうにニヒルでありながら笑われて喜ぶ感じがちょっと洒脱なおじさんでした。 彼が「プレイボーイ」誌に1980年代初頭に連載していたコラムに、彼が敬愛するAF(ア…

講談社文芸文庫 編「戦後短編小説再発見18 夢と幻想の世界」929冊目

京都に「鶏肉のどろどろ」という料理を出す中華の名店があるらしい。お昼どきのバラエティ番組を見ていたら、その料理を紹介してました。これには由来があって、谷崎潤一郎のある小説のなかに、この料理の名前だけ出てくるんですって。お料理そのものは、実…

ニコルソン・ベイカー「U&I」923冊目

Uってジョン・アップダイクのことか。好きだけどなぜか全部読んだ作品が少ない小説家のことを、知りもしないのにあれこれ妄想して1冊本を書いてしまった、という。やっぱりニコルソン・ベイカーって変な人だ。 でもこの本はすごく面白い。語り口がカジュア…

ニコルソン・ベイカー「ノリーのおわらない物語」910冊目

この人の本を最初に読んだのは、1992年にロンドンに滞在してたときだ。半年しかいないのに、毎月1ポンドとかの廉価でペーパーバックが送られてくる「ブッククラブ」に入ってたときじゃないかな。ただしその本のタイトルは「VOX」、日本語版は「もしもし」。…

村田喜代子「エリザベスの友達」909冊目

敬愛する村田喜代子の小説、ぼーっとしてるといつのまにか読んでない新作がたまってる。久々に読んだこの作品の話者は、自分自身の更年期など過ぎ去って、施設で暮らす90代の母の介護をしている。もともとこの人の小説は、どこか筑豊マジック・リアリズムと…

村田沙耶香「地球星人」905冊目

最近わりと目触りのいい(そんな言葉ないか)小説ばかり読んでたので、毒気に当てられたくて久しぶりにこの人の本を読んでみる。 少女が自分自身のことを選ばれた魔法少女だと妄想し、同様に自分を宇宙人であると妄想しているイトコと共鳴しあう・・・という…

窪美澄「夜に星を放つ」904冊目

短篇集だった。どの短編にも星座や星がモチーフとして出てきて、どの短編も家族間の関係を切なく描いている。だいたい家族の誰かが死んでいたり、いなくなっていたりする。家族って星座みたいなものなんだろうか。天体は地球から見てほぼ不動だけど、あれと…

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」901冊目

単行本の小説はすぐ読み終わる。この本も、順番を待ってる人がたくさんいるから、早く図書館に返しに行かなければ。 ところで、日本社会っていつからこの本の中の職場みたいに均質化してしまったのかな?私にいたいろんな職場には、しょっちゅうケーキを焼い…

安壇美緒「ラブカは静かに弓を持つ」882冊目

JASRACと音楽教室の間のトラブルを元にした小説。だけど全然社会派ではなくて、音楽教室にスパイに行かされたその団体の内向的な職員が、音楽を取り戻し、自分の生きる道に気づくという人間ドラマとして書かれています。 その職員の長身でイケメンで無口で音…

エマニュエル・ドンガラ「世界が生まれた朝に」881冊目

高野秀行「語学の天才まで一億光年」を読んだら、この本を卒業制作にして最優秀賞を取ったと書いてあったので読んでみました。リアルなのか空想っぽいのか、西欧批判なのか地元批判なのか、はたまたすべてを認めているのか、価値観がひとつでなく移ろってい…

角田光代「くまちゃん」876冊目

確か「理想的本箱」という番組で紹介されてました。角田光代の本は多分1冊くらいしか読んでないけど、映画化されたものは「紙の月」「八日目の蝉」「愛がなんだ」のどれも印象に残ってて、リスペクトしてる作家です。 その作家がなぜ「くまちゃん」。気にな…

シヴォーン・ダウド「ロンドン・アイの謎」873冊目

ロンドン・アイができたり、テムズ川岸が再開発されてオシャレな街になった後はほとんど見てない。「テート・モダン」しか知らない・・・。1992年にロンドンのアールズ・コート近くに滞在してたとき、あの駅のどっちを出れば展示場に出られるのか迷ったのを…

アニー・エルノー「嫉妬/事件」870冊目

「シンプルな情熱」に続いて、先日ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーを読んでみます。手元にあるのは表題が「嫉妬」だけの2004年版だけど、「事件」も併録されているのでタイトルは後に出版された文庫版に合わせて「嫉妬/事件」とします。 エルノー…

アニー・エルノー「シンプルな情熱」868冊目

恋する人間の女性の感覚を研究した論文みたいな小説だった。 脳梗塞の発作を起こした脳科学者が、自分を研究対象にした論文を書くのと同じだ。プロフェッショナルな研究者が、専門領域(この著者はフランス文学の教授資格を持ってる)に該当する事態に自分が…

カレル・チャペック「マクロプロスの処方箋」866冊目

すっごく面白かった。カレル・チャペックがこんな戯曲を書いてたなんて、驚いてしまう。 彼の「山椒魚戦争」を読んだらファンになってしまい、RURやらダーシェンカやらも読んだしチャペック展にも行った。(※この間20年以上たっている)確かに彼は優れたスト…

筒井康隆「残像に口紅を」864冊目

いいなぁ筒井康隆。年とったら、映画「ハロルドとモード」のモード婆さんのようになりたいと思ってる私ですが、男だったら筒井康隆もいいなぁ。誰の言うこともきかず、面白いことをやり続けたいもんです。 この小説も大笑いしながら読みました。表現から徐々…

桜庭一樹「少女を埋める」862冊目

小説には、事実関係や登場人物たちの気持ちをくっきり明確に描くものと、ぼかして描くものがある。「少女を埋める」は自伝的小説なので主人公から見た事実と彼女自身の気持ちは明確だけど、それ以外の人たちは他人として描かれるので事実関係も気持ちも明ら…

ケニルワージー・ウィスプ(J.K.ローリング)「クィディッチ今昔」861冊目

ちょっと調べものをした関連で、こんな本があることを知って、読んでみました。伝統的なスポーツの本として普通に面白かった。世界をひとつ、ふたつ、ゼロから創造してきたんだもんな、ローリングさんは。世界中の老若男女がすっと受け入れて共感して感動で…