本)文学、文芸全般

村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」1058冊目

村田沙耶香ワールド。いつも彼女の書くものの主人公は、”スクールカースト”に見放されたあと、一周回って開き直った強くて鋭い女だ。この小説ではその前日譚が語られてる、みたいな感じ。まだ変な女デビューしていなかった頃の彼女。…であり、これは、もしか…

朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」1090冊目

これは紙で読みました。単行本ではなく、新潮の2024年5月号。 これ読んで、同じ芥川賞を受賞したばかりの「ハンチバック」を思い出す人は多いんじゃないかな。私は「すこしちがう人」への関心が強いほうだと思うので、両方とも食い入るように読みましたが、…

麻月りお「イケメン王子がいる水没寸前の王国で、日本語を教えることになりました!」1086冊目

日本語教師の方が書かれたとのことで、読んでみました。面白かった(笑) ベタといえばベタな、”ふつうの私が王子様と”ストーリーだけど、水没寸前の遠い島国からのイケメン王子ってのが、なさそうでありそうで、なんとなく危機感を持って読んでしまうし、い…

宮島未奈「成瀬は信じた道をいく」1085冊目

つづいてこちらもAudibleで。成瀬は高校を卒業し、当然のように京都大学に通っています。女子大生となった彼女は「観光大使」になり、小学生の弟子を持ち、けん玉でテレビに出演し、「ゼゼカラ」の相方と再会。今回もあきれるほど予想外な規模の大冒険を真顔…

宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」1084冊目

これもAudibleで。これはすっごく面白かったです。ナレーターが一人で語っているのに、成瀬とその親友 島崎、同級生の大貫や、成瀬に惚れる西浦少年とその友人 中橋。といった登場人物の口調や声音が明確に聴き分けられて、それぞれの人物像が生き生きと聞こ…

九段理江「東京同情塔」1082冊目

これもAudibleで聴きました。今度は…何度も、気づいたら爆睡してました。こういう、だらっと聞けない、密度の高い文章で書かれたもののほうが、集中を保つのが難しいんだ。言い訳だけど。もしかしたら、漢字で書かれたほうが、どの熟語なのかがわかりやすい…

万城目 学「八月の御所グラウンド」1080冊目

これもAudibleで。とても面白かったです。なるほどの直木賞。駅伝を走る女の子も、野球に駆り出される男の子も、自己肯定感めっちゃ低くて共感度高いし、最初は冷淡に思えた人たちの熱い気持ちがだんだん見えてきて、世の中のあったかさに包まれるような読後…

恒川光太郎「夜市」1075冊目

Audibleで聴きました。一人の女性ナレーターによる朗読。大人の男性も出てくるけど、ほぼ違和感なく、かつ、複数の登場人物を区別できなくなることもなく、面白く聞けました。 ジャンルでいうと、ダークファンタジーという感じを受けましたが、ホラー大賞受…

東野圭吾「誰かが私を殺した」1074冊目

初めて「Audible」で本を聴いてみました。映画は見るしかないし、本も読むしかないけど、最近目が疲れやすくて、時間があってもためらうことがあるんですよ。映画は音だけだと完全ではないけど、本は100%聴くことができる。Kindleで買って読み上げてもらう…

有吉佐和子「青い壺」1071冊目

令和のベストセラーだそうです、書かれたのは昭和52年(1977年)なのに。有吉佐和子といえばドラマ「悪女について」の印象が当時衝撃的で、その後たまたま手に入れた原作を読んだら、さらに迷宮の中へはまり込んでいくような気分になりました。あれはさまざ…

恩田陸「夜明けの花園」1058冊目

面白かった。恩田陸のゴシック系のほうの作品。全寮制の学園が舞台で、ヨーロッパ系の美形の少年が何人も出てくるので、萩尾望都作品を小説で読んでるような錯覚にいっしゅん、陥ったりする。スパイや刺客や大富豪の御曹司が登場するし。 ミステリーに殺人事…

スティーヴン・ハンター「ダーティ・ホワイト・ボーイズ」1056冊目

<結末にふれています> 「あの本、読みました?」という番組があって、読書家の女子アナが何人か登場した際に、グレイヘアで上質な着物をたおやかに着こなした近藤サトが「ぜったいおススメの本を1冊だけ選んで」であげたのが、この本。よほど面白いのかな…

友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん~巡る季節のミネストローネ~」1055冊目

とても人気のあるシリーズと聞いて、読んでみました。「殺人事件が起こらなくても面白いミステリーは書ける」が証明された!と嬉しい気持ちになります。 登場人物がみんなすごく好感が持てます。魅力的だけどありえないほどのフィクション感がなく、常識が通…

小川哲「君のクイズ」1050冊目

面白かった。舞台が現代で、おもにクイズ選手権番組の1つの問題を中心にして書かれているので、わりと短い、軽い作品という印象。すくなくとも、前に読んだこの作家の作品、重厚長大な「地図と拳」のことは思い出さなかった、名前は憶えてたのに。 クイズ選…

松浦寿輝「花腐し」1044冊目

<小説と映画のネタバレがあります> 映画が印象的だったので原作も読んでみたくなりました。小説と映画はかなり違うらしいという認識で。読んでみたら、意外なところが同じで、意外なところが違ってた。 意外に同じところ:アパートの中の様子。アパートの…

佐藤正午「月の満ち欠け」1042冊目

<すみません、小説でなく映画のほうの結末にまでふれています。これから見る方はお読みにならないよう> 最新作「冬に子どもが生まれる」を読んだら、これを再読したくなりました。 最初に読んだときは、なんかすごくロマンチックに感じられて少しびっくり…

佐藤正午「冬に子供が生まれる」1040冊目

Web媒体に連載中、夢中になって次回を待ちながら読んだのですが、まとまった感想を書くのは難しく、単行本を待って再読しました。 「月の満ち欠け」でとうとう直木賞をとったわけですが、今まで愛読してきた佐藤正午となんとなく”手触り”?が違うようでちょ…

須賀敦子・文、酒井駒子・絵「こうちゃん」1034冊目

須賀敦子が書いた童話がある、それを絵本にしたものが日本で出版されている、というので調べて読んでみました。絵は私の大好きな酒井駒子です。 「こうちゃん」。「こうちゃん」って誰だろう。座敷わらしだけど室内より屋外によく出没する。神出鬼没で、人の…

市川沙央「ハンチバック」1019冊目

あーー面白かったーー! 電車の中でカバーもつけずに読んでいたら、B級かC級くらいの感じのエロ小説が始まったので困ってしまった。いろいろ戸惑う部分もたくさんあったけど、まずはあまりの面白さにあっという間に読み終えてしまったことを書いておきたいで…

延江浩「J」1018冊目

この本の紹介をどこかで見たとき、すごく下世話で品のない本かなぁ、でも読んでみたい、と思った。読み終わった感想をいうと、思ったような下品さは全然ない本だった。この著者のことは全然知らないけど、もともとこういう純文学っぽい文章を書く人なんだろ…

坂本龍一「ぼくは、あと何回、満月を見るだろう」1015冊目

坂本龍一のことを私はたぶん、自分とかより”進化した人類”、目指すべきもの、と思っていて、どうやっても近づきようのない高みにいる存在だった。バッハとかモーツァルトみたいな。こんなに早く、ろうそくを吹き消すみたいにいなくなってしまって、ぽかんと…

マリアーナ・エンリケス「寝煙草の危険」1008冊目

装丁がまず綺麗。蛾は苦手だけど、この本の中の世界の不思議な美しさを象徴していますね。 カズオ・イシグロが激賞しているという、新進気鋭のスペイン語文学の作家は、アルゼンチンの女性らしい。文学界のロック・スターだ、ホラー・プリンセスだ、とも書か…

津村記久子「水車小屋のネネ」994冊目

いい本だな。好きだな。 ここ数年、けっこう本を読んでるつもりだけど、この人の本は初めて読んだ。原作が映画になった「君は永遠にそいつらより若い」は地味に好きだったけど、その世界とこの本の世界は地続きなかんじがする。 たくさんの傷ついた少年少女…

伊坂幸太郎「マイクロスパイ・アンサンブル」992冊目

伊坂幸太郎読むの久しぶり。基本おもしろいはずなのでかなり期待して読んだけど、これはちょっと特殊な、猪苗代湖でのイベントのために書かれたもので、小説として全体の緻密な構成とか完成度を目指して書かれたものではなかった。 でも著者がTheピーズとTom…

村田沙也加「となりの脳世界」991冊目

面白い・・・しみじみ面白い。やっぱり面白い。 学校の先生は厳しい規律を強いておきながら「自由な発想をしなさい」「独自の考えを言ってください」という。もともと発想や考えが自由で独自な人は、規律に自分を合わせるのが難しい。両立させがたいものだと…

温又柔「私のものではない国で」988冊目

リービ英雄のデビュー作も読んだ記憶があるし、最近では李琴峰にはまった。どんな文学者が書いた日本語の作品も、自分とは違う言語センスを楽しめるけど、母語じゃない人たちの、私が使っている日本語からの逸脱はもっと大きくて、意外で、美しく感じられる。…

井戸川射子「この世の喜びよ」985冊目

”今どきの若い子たち”は、芥川賞受賞作品は読まないけど、本屋大賞受賞作品は喜んで読む、と何かで読みました。これは多分、読まないほうの典型例なんだろう。起承転結が、山でいうと公園の砂場の山くらいの高低差で、ツカミもオチもないしショックも感動も…

小川哲「地図と拳」971冊目

大河ドラマだった~~。 満州国っていう、日本の中枢にいた昔の人が勝手に夢みた国の歴史をたぐり、こんなことやあんなことがあったんじゃないかと想像して書かれた物語だった。 数々の窮地を逃れてきた主人公が、ふいに没する場面がちょくちょくある。年代…

大江健三郎「水死」969冊目

すごく面白かった。と書くと、最新のブログや動画が面白かったのと区別のつかない貧しい表現になってしまうけど、気軽に読み始めたのに謎の要素やストーリーの先が気になって、続きを読みたいから早く帰宅する。厚い本だけど、電車やバスに持って乗る。 一目…

ジョン・アップダイク「アップダイクと私」966冊目

ニコルソン・ベイカーの「U&I(アップダイクと私)」を読んで、そこから本物のアップダイクに来た。(これにもおおもとの「ボルヘスと私」があるとは知らなかった。読まなければ!) これエッセイと書評を集めた本で、「アップダイクと私」は、作家として注…