本)文学、文芸全般

講談社文芸文庫 編「戦後短編小説再発見18 夢と幻想の世界」829冊目

京都に「鶏肉のどろどろ」という料理を出す中華の名店があるらしい。お昼どきのバラエティ番組を見ていたら、その料理を紹介してました。これには由来があって、谷崎潤一郎のある小説のなかに、この料理の名前だけ出てくるんですって。お料理そのものは、実…

ニコルソン・ベイカー「U&I」823冊目

Uってジョン・アップダイクのことか。好きだけどなぜか全部読んだ作品が少ない小説家のことを、知りもしないのにあれこれ妄想して1冊本を書いてしまった、という。やっぱりニコルソン・ベイカーって変な人だ。 でもこの本はすごく面白い。語り口がカジュア…

ニコルソン・ベイカー「ノリーのおわらない物語」810冊目

この人の本を最初に読んだのは、1992年にロンドンに滞在してたときだ。半年しかいないのに、毎月1ポンドとかの廉価でペーパーバックが送られてくる「ブッククラブ」に入ってたときじゃないかな。ただしその本のタイトルは「VOX」、日本語版は「もしもし」。…

村田喜代子「エリザベスの友達」809冊目

敬愛する村田喜代子の小説、ぼーっとしてるといつのまにか読んでない新作がたまってる。久々に読んだこの作品の話者は、自分自身の更年期など過ぎ去って、施設で暮らす90代の母の介護をしている。もともとこの人の小説は、どこか筑豊マジック・リアリズムと…

村田沙耶香「地球星人」805冊目

最近わりと目触りのいい(そんな言葉ないか)小説ばかり読んでたので、毒気に当てられたくて久しぶりにこの人の本を読んでみる。 少女が自分自身のことを選ばれた魔法少女だと妄想し、同様に自分を宇宙人であると妄想しているイトコと共鳴しあう・・・という…

窪美澄「夜に星を放つ」804冊目

短篇集だった。どの短編にも星座や星がモチーフとして出てきて、どの短編も家族間の関係を切なく描いている。だいたい家族の誰かが死んでいたり、いなくなっていたりする。家族って星座みたいなものなんだろうか。天体は地球から見てほぼ不動だけど、あれと…

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」801冊目

単行本の小説はすぐ読み終わる。この本も、順番を待ってる人がたくさんいるから、早く図書館に返しに行かなければ。 ところで、日本社会っていつからこの本の中の職場みたいに均質化してしまったのかな?私にいたいろんな職場には、しょっちゅうケーキを焼い…

安壇美緒「ラブカは静かに弓を持つ」882冊目

JASRACと音楽教室の間のトラブルを元にした小説。だけど全然社会派ではなくて、音楽教室にスパイに行かされたその団体の内向的な職員が、音楽を取り戻し、自分の生きる道に気づくという人間ドラマとして書かれています。 その職員の長身でイケメンで無口で音…

エマニュエル・ドンガラ「世界が生まれた朝に」881冊目

高野秀行「語学の天才まで一億光年」を読んだら、この本を卒業制作にして最優秀賞を取ったと書いてあったので読んでみました。リアルなのか空想っぽいのか、西欧批判なのか地元批判なのか、はたまたすべてを認めているのか、価値観がひとつでなく移ろってい…

角田光代「くまちゃん」876冊目

確か「理想的本箱」という番組で紹介されてました。角田光代の本は多分1冊くらいしか読んでないけど、映画化されたものは「紙の月」「八日目の蝉」「愛がなんだ」のどれも印象に残ってて、リスペクトしてる作家です。 その作家がなぜ「くまちゃん」。気にな…

シヴォーン・ダウド「ロンドン・アイの謎」873冊目

ロンドン・アイができたり、テムズ川岸が再開発されてオシャレな街になった後はほとんど見てない。「テート・モダン」しか知らない・・・。1992年にロンドンのアールズ・コート近くに滞在してたとき、あの駅のどっちを出れば展示場に出られるのか迷ったのを…

アニー・エルノー「嫉妬/事件」870冊目

「シンプルな情熱」に続いて、先日ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーを読んでみます。手元にあるのは表題が「嫉妬」だけの2004年版だけど、「事件」も併録されているのでタイトルは後に出版された文庫版に合わせて「嫉妬/事件」とします。 エルノー…

アニー・エルノー「シンプルな情熱」868冊目

恋する人間の女性の感覚を研究した論文みたいな小説だった。 脳梗塞の発作を起こした脳科学者が、自分を研究対象にした論文を書くのと同じだ。プロフェッショナルな研究者が、専門領域(この著者はフランス文学の教授資格を持ってる)に該当する事態に自分が…

カレル・チャペック「マクロプロスの処方箋」866冊目

すっごく面白かった。カレル・チャペックがこんな戯曲を書いてたなんて、驚いてしまう。 彼の「山椒魚戦争」を読んだらファンになってしまい、RURやらダーシェンカやらも読んだしチャペック展にも行った。(※この間20年以上たっている)確かに彼は優れたスト…

筒井康隆「残像に口紅を」864冊目

いいなぁ筒井康隆。年とったら、映画「ハロルドとモード」のモード婆さんのようになりたいと思ってる私ですが、男だったら筒井康隆もいいなぁ。誰の言うこともきかず、面白いことをやり続けたいもんです。 この小説も大笑いしながら読みました。表現から徐々…

桜庭一樹「少女を埋める」862冊目

小説には、事実関係や登場人物たちの気持ちをくっきり明確に描くものと、ぼかして描くものがある。「少女を埋める」は自伝的小説なので主人公から見た事実と彼女自身の気持ちは明確だけど、それ以外の人たちは他人として描かれるので事実関係も気持ちも明ら…

ケニルワージー・ウィスプ(J.K.ローリング)「クィディッチ今昔」861冊目

ちょっと調べものをした関連で、こんな本があることを知って、読んでみました。伝統的なスポーツの本として普通に面白かった。世界をひとつ、ふたつ、ゼロから創造してきたんだもんな、ローリングさんは。世界中の老若男女がすっと受け入れて共感して感動で…

朝倉かすみ「平場の月」860冊目

ふしぎな味わいの本だと思った。 舞台は埼玉の中くらいの大きさの町、登場人物は印刷会社の男と病院の売店でパート勤務している女。お金がないから、と言って、女の家で家飲みをする。外食するときも駅前の焼き鳥屋。なんだか侘しい。読んでる自分と似たよう…

遠藤周作「影に対して」857冊目

この短篇集を読むとき、主人公の姿を「のび太」として思い浮かべるといい。 小説のなかでは一人っ子のこともあれば、兄がいる設定のものもある。弟と考えた方が、主体性のなさがイメージしやすい。 父と別れてひとりで息子を育てている母の財布から、小銭を…

チャールズ・ブコウスキー849冊目「町でいちばんの美女」

ブコウスキーはこれで3冊目。とても短い短編がたくさん収録されている本です。 冒頭の表題作は、美しすぎるゆえに全く幸せになれない女性の悲しくも美しい話で、やっぱりブコウスキーはなんだかんだ言って女性愛の人だなぁと思う。 「人魚との交尾」は映画「…

ヘレン・ケラー「奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝」848冊目

このタイトルが誤解を呼んだんだな。原題は「The Story of My Life」。「奇跡の人」はサリバン先生のことなのだ。(「ヘレン・ケラーはどう教育されたか」の感想にも書いた)まさに、2冊が対をなしている良著です。 と同時に、人はどうやって言語を習得する…

白洲正子「鶴川日記」845冊目

これもまた「一万円選書」から。白洲正子、お姿とお名前はよく知ってるけど、書かれたものを読むのは初めてです。 少し前にたまたま、鶴川に住む友人宅に伺うことがあって、車で「コメダ珈琲店」に連れて行ってもらったりもしたのですが、町田市の中心とはち…

藤本義一・選、日本ペンクラブ・編「心中小説名作選」844冊目

<すみません、全部ネタバレ書いてしまったので、これから本を読むつもりの方は以下読まないでください> 心中ものって歌舞伎とかでも嫌いな方なんだけど、理由があって読んでみました。 理由というのは私が愛読している作家、佐藤正午が今、突発性難聴に悩…

立川談四楼「ファイティング寿限無」843冊目

これも「一万円選書」の一冊。すごく面白かった。さすが落語家。テンポの緩急が絶妙で、スリルと落としどころの感覚も鋭いし、言葉の選び方にセンスが感じられる。「自分はこれを表現したい」というより、読む人のために純粋にエンターテイメントとして書い…

福井県立図書館「100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集」839冊目

これは面白かった。ときどき声を出して大笑いしてしまった。こういう罪のない笑いって、ほんとなごみます。 この図書館の覚え違いリストは何度か見たことがあって、そのたびにクスクス笑ってましたが、この本はとても構成がよくて、間違ったほうのタイトルに…

村田喜代子・酒井駒子ほか「暗黒グリム童話集」836冊目

素晴らしく美しい本でした。 小説家6人×画家6人の組み合わせで、グリム童話をベースにした新作の怖い童話を作り上げています。文字数も絵の数もたっぷりとってあるので、美しいだけじゃなくてストーリーも深くてすごく読み応えがあります。 村田喜代子はそも…

原田マハ「楽園のカンヴァス」810冊目

面白かった。先を急いで読み切った。あまりにも、うまいこと偶然や運命が重なったり、関係者の情熱がすごすぎたりするし、やけにロマンチックすぎたりするところは、面白い少女マンガみたいな感じです。世の中には、本当らしさを追求して、読む人に心の痛み…

上間陽子「海をあげる」788冊目

うん、私が読みたかったのはこういう本だ。「500ヘルツのクジラたち」じゃなくて。ただ、読みながら自分がこの本を沖縄に対する加害者としての本土の人間として読むべきなのか、誰にも話したことのない数々の傷を負った同じ被害者の女性として読むべきなのか…

恩田陸「薔薇のなかの蛇」785冊目

長年少しずつ書き溜めてきたものが、まとまって本になった形のようです。この作家の作品は数冊しか読んでないけど、初期のちょっとまがまがしくて美しい、名作少女マンガみたいな世界、という感じがします。 けっこう厚みがあるけど、スルスルと楽しく一気に…

恩田陸「灰の劇場」777冊目

恩田陸は「蜜蜂と遠雷」で好きになって何冊か読んだ。これは「蜜蜂」後の毛色の違う新作ですね。 「蜜蜂」は音楽の天国のような物語で、この小説はその対極をいくような、何も手に入れなかった、あるいは喪失した人々の物語。というより、希望に燃える若い時…