Web媒体に連載中、夢中になって次回を待ちながら読んだのですが、まとまった感想を書くのは難しく、単行本を待って再読しました。
「月の満ち欠け」でとうとう直木賞をとったわけですが、今まで愛読してきた佐藤正午となんとなく”手触り”?が違うようでちょっと戸惑いました。そして続くこの本。こちらも、超現実的なものが全体を覆っていて、少し戸惑いはしたんだけど、読んでいる私の気持ちはたとえば「身の上話」や「鳩の撃退法」を読んでいたときの気持ちに近い、トイレに行く間も惜しんで次へ、次へ、と急ぐ、あの感じがありました。
改めて思い返してみると、昔から彼の作品には、すごく隠れた形で超常的なものが流れていたのかもしれない。そういうものが目立つ形で現れるのはたとえば村上春樹で、この人の作品の中で人間関係はとても狭く閉じているので、不思議なことについて公衆から責められたり噂されたりする場面は少ない印象です。でも佐藤正午作品は、すごく普通の地方社会で繰り広げられるので、ちょっと外れたことをしている主人公まわりの人たちは、大衆からのやんわりとした攻撃にいつもさらされています。その軋轢は常に主人公まわりの人々を傷つけています。
この作品「冬に子供が生まれる」では、その「主人公たちが巻き込まれる不思議なこと」が即実的な犯罪ではなく超常的な何かだったら、当事者たちは何を考えどう行動するのか?というように、テーマを少し斜めにしただけのいつもの佐藤正午作品なんだ、というふうに感じています。
そのおかげで、この作品は「月の満ち欠け」と今までの他の作品とをつないでくれて、やっと佐藤正午の作品の流れというか、広がりが納得できたように思います。佐藤正午が、丁寧に丁寧に、超常現象の当事者となってしまった子どもたちや周囲の大人たちの数十年間を描くとどうなるか。(一人の読者がどれほど納得しようがどうしようが、わりとどうでもいいことかもしれないけど)
読み終わって、なにか深いしずかな感動があります。人間が生きて死ぬこと、愛したり失くしたりすることの美しさと悲しさに、思いを馳せてしまうんですよね。こういう感覚は昔の作品にはなかった。もっと遠くへ、もっと遠くへ、と、目に見えないどこかに何かを求めていく感じが強かったです。
・・・これは、もう一度「月の満ち欠け」を読み直してみなければ。そしてまた感想を書きます!