内藤陳「読まずに死ねるか!」947冊目

これ最高ですね。内藤陳は私の中では”性格俳優”だけど、デビューはコメディアンなんですね。みょうにニヒルでありながら笑われて喜ぶ感じがちょっと洒脱なおじさんでした。

彼が「プレイボーイ」誌に1980年代初頭に連載していたコラムに、彼が敬愛するAF(アドベンチャー・フィクション、冒険小説)作家との対談、よりすぐり作品リストを加えた構成のこの本。彼の語り口はすごく癖があります。一人称は「陳メ」。朕と陳をかけてるんですかね、それに自分を卑下してむかしの人がつけていた「め」をカタカナで接尾する。オノマトペのほか、ケッコウ、イキなど自分が感じたことを表す語もたいがいカタカナ。40年前ですから「ブス」とか「ウソツキ」とか「ミニクク」とか、最近とんと見なくなった語彙も多くてドキッとします。かなり躁状態で読書し、興奮冷めやらぬまま感想を書く。よく泣く。嘘がない。勢いとリズムがある。これがフィクションなら、彼が愛する冒険小説そのものです。エッセイの文体って、時代によってすごく変わるな。たまには40年、50年前のものとか、明治大正時代のエッセイとか読むと新鮮なんですよね。

この本で紹介される冒険小説の数はけっこう膨大なんだけど、”新人”椎名誠がいたり、今はもう図書館で検索しても一冊も見つからない作家もいます。内藤氏がやっていた新宿ゴールデン街の「深夜プラス1」も彼が主宰した「日本冒険小説協会」も今はないけど、この協会が毎年選んだ大賞受賞作(この本で内藤が選んだ本とも重なる)はどれも確かに面白そうだ。芋づる式に何冊か読んでみようと思います。

今生きてたら、北欧ホラーとか中国SFとかどう読んだだろうな。彼の感想がぜひ聞いてみたかったです。

(「深夜プラス1」の元になった小説の原題はMidnight+1、ってことは、深夜12時プラス1時間って意味かもな。でも「深夜プラス1」のほうが真夜中に怪しい誰かが訪ねてきたみたいでちょっといいな)