筒井康隆「ジャックポット」715冊目

断筆を解いたあとけっこう書いてたんですね。これは最新刊。これはSFカテゴリーじゃないな。エッセイありフィクションあり、フィクションのほうはボルヘスみたいに自作の小説を「1分にまとめました」っぽく書いている感じ。読む方も楽だし書く方も楽。まどろっこしさを楽しむのは若い人だけで良いのかも…。

戌年ってことは私の亡父と同い年だ。この老人の前頭葉の知的活動の活発さ。好き嫌いはあるだろうけど、彼の言葉遊びが私にはとても楽しい。もとネタを知っていた方が楽しめるので、昭和を知る人、サブカルチャーに興味を持ち続けた人でないと、「なにこのたわごと」としか見えないかもしれない。

収録されている短編のひとつ「コロキタイマイ」の中に、アラン・ロブ・グリエについて触れた箇所がある。私の好きな「去年マリエンバートで」の監督はアラン・レネ、と思ったら脚本がロブグリエだった。たまたま先週VODで「快楽の漸進的横滑り」という珍妙なタイトルの映画を見たんだけど、そっちはロブグリエが監督している。なるほど「マリエンバート」も「横滑り」も夢見るような、美を中心にしたリアリティの薄い作品だ。 筒井康隆がこういう作品を好んで見てきたっていうのは、彼らのロマンがアバンギャルドに見えるからだろうか?

「ニューシネマ「バブルの塔」」は小説かも。末尾に列挙された、彼が道連れにしたい作家の実名を見ると、私が好きな人も嫌いな人もいて、お互い嫌い合ってるだろうなーと思う人たちも入ってるけど、私は佐藤正午の名前があって嬉しい。

この短編集、あまりにも語呂が良くてつい朗読してしまう(私だけかも)。口に出して読むと気持ちいいのだ(私だけかも)。

表題の「ジャックポット」はコロナ禍をいつもの調子で語呂合わせした短編だけど、ジャックポットというのは実は別の人の作品のタイトルだった。さっそく、ハインラインの「大当たりの年(これが邦題)」が収録された「時の門」を手配してしまった。

筒井康隆の口(筆か)の悪さはお約束だ。誰に対しても憎しみはないけど皮肉は痛烈。いわゆる不適切な言葉を主に使う。…お約束ならいいんじゃないか。教科書に載せず、分別のある大人だけが読めば。そういう場を残しておくほうが健全な社会って気がする。

「想像もしなかったような別世界へ連れて行ってくれる」という小説の楽しみはないけど、面白かったです。