岸政彦「ビニール傘」714冊目

私の好きな本がこんなところにあった。

人はそれなりにがんばっていても、何かのきっかけでずるっと社会から滑り落ちてしまう。他の人たちをはねのけて、しがみつく人もいるけど、身体や心が弱くなってしまうとがんばることもできなくなって、漂いつづける人もいる。

この本は漂うほうの人たちを優しく思い出すような中編2つでできています。読む人は理解とか共感とか、何かを要求されることはなく、ただ、そうだよね、って思って読めばいい。押しつけがましいのが苦手な人向け。

「ビニール傘」って安っちくてコンビニでも100円ショップでも売ってるものがタイトルなのがいいです。

文章に焦りがないのは、書いている人は当事者じゃなくて傍観者だからかもしれない。他人にするように優しい、自分自身にならこんなに優しくできない。無縁仏の骨を拾うような本、だと思いました。

優しくされたいから、ほかの小説も読んでみます。