松下竜一「底ぬけビンボー暮らし」660冊目

敬愛する松下竜一の本、「ルイズ」とか「砦に拠る」以降読んでなかったので読み直し始めています。比較的新しいものも読んでみよう、かつ、会社を辞めて収入が激減したので「ビンボー」に敏感に反応した、というのもあります。(というか、今わたしは大節約ブームを楽しんでいる)

この本は、彼が一生出し続けた「草の根通信」というミニコミ誌に連載した生活のエッセイをまとめたもの。「豆腐屋の四季」の豆腐屋が”売れない作家”に変わっただけで、丁寧に不器用に愛情豊かに暮らす、この人の暮らしがつづられているのは同じです。豆腐づくりは大変な重労働だけど、書くことは彼にとっては辛い作業ではなく、受注待ちで暇にしている時間も長いので、彼は毎日愛妻と1~2時間も犬の散歩に出ては、河原の橋の下でゆったりとした時間を過ごします。豆腐屋を一緒にやっていたお父さんは寝たきりになり、入院し、やがて亡くなります。松下氏を慕って熊本からやってきた老人の世話をして、彼が元気になって戻っていくことも(名前は伏せていますが)忌憚なくつづられます。

短歌でまず認められた人の書く散文はやっぱり詩情があふれていて、幸せって身近にあるんだなとしみじみします。私も今は猫をひざに載せて、部屋に入ってくる風を感じているだけで幸せだなーと浸っていることが多いので、共感します。お金を必要以上に稼ぐことや、できるだけ立派な会社に入って少しでも上に行くこととか、ともすると”そっちの世界”にまた引っ張られそうになるけど、今いるところに踏みとどまっていこうって思える。

図書館のおかげで読みたい本はほとんど読めるし、VODやレンタルDVDのおかげで見たい映画は(待っていれば)ほとんど見られる。特別高い食材を使うのでなければ、食べたいものも作れば食べられる。絶対的な平穏が部屋の中には、自分の中には、ちゃんとある。

教科書に載った短編がいくつも収録されている「潮風の町」や豆腐屋を辞めて作家一本になった経緯もいつか読みたいなー。

底ぬけビンボー暮らし (講談社文芸文庫)

底ぬけビンボー暮らし (講談社文芸文庫)

  • 作者:松下 竜一
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫