チャールズ・ブコウスキー「パルプ」661冊目

なんてデタラメで痛快で面白いんでしょう。彼の作品の擁護者と批判者は、はっきり二分されるんだそうですが、擁護者のなかに「千年の愉楽」の中上健次がいて「なるほど」と思ってしまいました。

私はマジメで几帳面なところのある人間だけど、彼らの魅力が理解できてよかった。自分と違うから憧れる部分もあるかもしれないけど。これがこの作家最後の長編だなんて、もう老成とかハナからする気ないわけですよね。一生ブコウスキーのまま。誰がどう思おうと酒を飲んで女の尻を眺めて、仕事はしてもいいと思うときしかしない。なんというか、文才は絵画や音楽と同じように、めちゃくちゃまじめに努力した人だけでなく、破天荒あるいは自堕落な生活をしている人に降りてくることもある。

彼の文章が「いい」のは、破天荒で自堕落だけど文章自体は非常に端正で破綻がなく、読みやすくリズムが良く気が利いたユーモアがある。という意味でです。東大を出ようが京大を出ようが、文章がメタメタな人もいる。私は端正な文章を、よくよく推敲された文章を読むのが好きだ。それは「である体」と「ですます体」が混在していないかどうか、というようなことじゃなくて、作者の気持ちと虚構が自然に、だけどそれとなく区別されて書かれていたりすること。この本の場合翻訳が素晴らしいということも50%くらいあるんじゃないかな。

たまたま出会った作家が好きになるという幸せ。また読まなくちゃ。

(2016年6月10日発行 840円)

 

パルプ (ちくま文庫)

パルプ (ちくま文庫)