何でも読んで何でも書く高橋源一郎と、何でも読んで訳す柴田元幸が、表題について自由に語り合った本。私の読んだことのない本や、聞いたこともない作家の話が多くて、いいとも悪いともなんとも言えないのですが、高橋氏が絶賛する柴田氏の訳書、ブコウスキーの「パルプ」をたまたま少し前に読んで(感想)いたので、そこを手掛かりに面白く読めました。パルプの自由さと、翻訳の素晴らしさを私も書いてましたね。
それと逆に、カズオ・イシグロが好きじゃないと書いてるのも面白いです。ブコウスキーとイシグロを比較する人もいないだろうけど、実は二人ともすごくストイックで知性派の文章の達人だと私は思います。イシグロはストーリーテラーに徹して神の視点で物語るから、玄人から見ると可愛くないのかなー?(なんという低い視点だ私は)
小説は嘘を書くことだ、みたいなことを二人で言い合っている中で綿矢りさを「初めて”~のようだ”という直喩を使うように自然に使っているから驚きがある」と書いてた。彼らは宇佐美りんを読んだらもっと驚くのかな。彼女たちの世代は、小説なんて嘘くさい、嘘を書くのが小説だ、というのを読んで育ってきた一方、生活のために身を粉にして働かない世代だと思う。ブラックな仕事をしてキツキツで生活するくらいなら、退屈に耐える、という風に見える。たくさんある時間のなかで、知らないことを武器に自分の中から出てくるものを書ける彼女たちの余裕は、この著者たちから見ればうらやましいようなまぶしいような感じなんじゃないかなーと思う。
著者二人が勧める小説のリストはメモったけど、それよりブコウスキーの他の作品が読みたくなったな…。