1989年に発刊された小説ですが、グラフィックデザイナーを本業として、そのほかに飲み歩き関係の記事などを雑誌に書いていた筆者が初めて書いた長編小説だそうです。
表紙カバー裏の写真をみると、ウイスキーらしきグラスを手にした無頼っぽい男で、野坂昭如的な昭和のにおいがプンプンしています。2017年の私について行けるか、ちょっと不安をおぼえつつ読み進めてみると、たしかにときどき戸惑うほど昭和です。
どれくらい昭和か?は後でふれるとして、この小説の特筆すべき点はそこではなくて、単純にミステリーが解明されていく様子が面白いし、人間味あふれる登場人物に存在感があって、じわっとあったまるいい小説なんですよ。さすが、あまたの小説好きに愛されてきた名作。
無頼派自転車乗りの主人公のほかに、一見クールだけど曲がったことが嫌いな自衛隊のエリートや、旅のなかで成長をとげていく通りすがりの少年など、ユニークな人物が続々と登場します。すごく男くさくて泥くさい小説だけど、いい小説でした。
さて、時代を感じさせる部分について書きますと・・・
主人公はグラフィックデザイナーで雑文家(明らかに著者の分身ですよね)で、自転車乗り。
思うことあって自転車で東京から東北への旅に出るのですが、そのいでたちがGパンにフィッシャーマンズベストって、釣り人かお前は??今公道をそんな格好で何百キロも飛ばす奴ぜったいいないよ。と、まずここから突っ込むわけですが、その頃のおまわりさんは「自転車は歩道を走れ」という指導をしていて、デコボコで走りにくい歩道をなんとか避けて、誰も見ていないときは車道に降りて走っていく主人公です。そして、彼は「アル中」という設定で、これがあまりに本格的なのでびびります。ドライブインに着く度に、朝から昼からビール大瓶を1本ずつ空け、宿では何度も頼むのが面倒だからと酒を最初に5杯注文する。さらに極め付けが、手持ち荷物の中に常にウイスキーのハーフボトル。飲酒量の問題だけじゃなくて、実際彼は昼間走っているときに禁断症状にたびたび苦しむのです。中島らも?
もはや平成の世の中では映画化不可能な世界。。。
「このミステリーがすごい!」などで堂々と入賞しているけど、この作家知らないなぁと思ってwikipediaで調べたら、1999年に亡くなられていました。ごく最近のベストテンにも入賞しているのは、今も彼の作品を愛読している人がたくさんいるということでしょう。きっと愛された作家だったんだろうなぁ。