若いころ、好きな作家を聞かれると村田喜代子と佐藤正午と答えてました。幡ヶ谷に住んでた頃かな。
その後x十年たちましたが、二人ともずっとゆっくりとしたペースで小説を書き続けていて、ときどきベストセラーになったり、「文章の書き方」の本を出したりしてます。我ながらいい趣味だった。(過去形?)
この本は競輪が趣味の佐藤氏が競輪雑誌に書いたコラムをまとめたもの。相変わらず淡々としているけど、どこか色気のある文章です。問題は私が競輪はおろか競x一般の造詣がほとんどゼロであること。「捲り」とか「番手」とか言われても意味がつかめず、読み進むのにちょっと苦労しました。
でも、賭け事に熱くなる人の気持ちの動きがじわーっとしみこむように感じられる本です。
なぜかAmazonの書評には彼の本をあのベストセラー作家と比較するものが多い。日常の中の冒険を冷めた頭で描いているというスタイルや、主人公の社会との関わり方の不器用さがなんとなく似ているからでしょうか。私にとってこの2者の違いは、佐藤氏の主人公には惚れるけどM上氏の主人公は好きになれないってところかな。佐藤氏の書評でこの二人を比較する人は当然佐藤氏のほうをべた褒めしてM上氏を悪く言うのですが、M上氏はあの翻訳調の文章や、起承転結があるようなないような流れや、読み終わっても読者が取り残される感じとかがスタイルなのであって、取り残された感覚を新鮮に感じた人たちが彼を評価しているわけなので、この違いは良し悪しではありません。あとは、多分だけど、作家になるまでに読んできたものが違う。M上氏は明らかに洋モノ育ちで、佐藤氏は和モノ育ちなんじゃないかなぁ。と想像します。
なんとなくまた、この本の中の競輪好きの甲斐性なしにちょっと惚れてしまったので、この作家の最近の本を大人買いしてみます。
以上。