歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」738冊目

すごく面白かった。「紙鑑定士」「伝説のプロモデラー」という、マニア心をくすぐるプロフェッショナルたちのオタクトークに”ふむふむ、ニヤリ”、「えっ」というようなエピソードの連続。だけど、文章がこなれていて読みやすい。登場人物たちが、美形であってもなくても、みんなちょっと壊れていて、インパクトも愛嬌もある。フケツな”プロモデラー”土生井でさえ、なんとなく好きになってくる。(でも若い絶世の美女が、なんの説明もなく彼と??というのは、いくらなんでも説得力が)

彼が第18回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞したのは2019年。続編を待ち望む人が日本に1万人くらいいそうなのに、次作をいくら探しても出てこないのは残念。で、妄想した。

選定者のコメントも巻末に収録されているんだけど、そこには圧倒的な面白さのほかに、”ご都合主義のストーリー運び”などの指摘もあります。確かに、トリックや動機、犯人像を見るとこれは”本格ミステリ”とはちょっと違う。この軽い楽しい語り口、彼は(おっさんだけど)いわゆる”ラノベ”のジャンルの人なんじゃないか。ラノベの著者たちのストーリーテリングの能力は高い。必ずドキドキしながら、おっさんでも婆さんでも、主役の少女になった気分で頬を染めてページをめくるのだ。”本格ミステリ”みたいに小難しい熟語とか外国ミステリの引用とかクラシック音楽とか、読者が知らないことは出てこない。(あるいは、知るわけないものとして、オタクトークが繰り広げられる、だから読者はバカにされてるような気にならない。これ大事なことだと思う)

本格ミステリは別の人に書いてもらえばいいので、どんどん面白い作品を書きまくってほしいです。首をながーく伸ばして待ってます。