佐藤正午「小説の読み書き」191

この本は小説家佐藤正午が、若かりし頃に読んだ歴史的な名作小説をあらためて読み直し、コンテンツではなくその文体表現に着目して表現の裏にある著者の意図を読み解こうとする・・・という本。読書のすすめなのか、小説を書くことのすすめなのか、どっちもなのか、渾然一体とした本です。

なんかこの人、各小説家の文体のクセや個性に、なにがなんでも意味があるということにしないと気が済まないようです。そしてどうしても意味が見いだせない場合、文体に頓着しないという確固とした意思がある、と結論づけます。小説のコンテンツに興味がないんだろうか、この人は。

でも正直なことをいうと、私もわりと文体が気になる方です。ただし佐藤正午氏は「文体は作家が隅々まで意図して作り上げたもの」という前提でその意図を探ろうとするのに対して、私はいつも「文体は意図するとせざるとに関わらず、作家の性格が自然とにじみ出るもの」という前提で作家の人となりを見抜こうとする、という、けっこう根本的な違いがあるようです。そういう違いはあるにしろ、文体にこだわった小説論なんて他に知らないので、この本を読み終えて俄然、過去の名作を読んでみたくなったのは確かです。

しかし私ほんとにいわゆる名作って読んでないなぁ。こんなに活字大好きなのに、子供のころ何やってたんだろう。家にはちゃんと日本文学全集もあったんだけど・・・。ところで夏目漱石川端康成、といった超有名作家のほかに、中勘助という圧倒的に知名度の低い作家の作品も取り上げてあります。この人は音楽でいえば「musician’s musician」、岩波文庫の売り上げベスト10の中で3位に入るというすごい売れ方なのに誰も知らない(小説好きな人以外)。気になってしょうがないので、とりあえず「銀の匙」という本を買うことに。オールタイム・ベストセラーらしく、近所の書店でも売ってました。

話がそれましたが、文体に着目して名作を読み直すの、賛成です。特に翻訳にたずさわってる人は、コンテンツは借り物で表現を工夫するのが仕事なので、こういう読み方をすることが仕事上の学びに直結するのでは?と思います。

あー、また本がたまってきたな・・・。以上。