南米で撮影された、素晴らしい映画を見ているようでした。
小説はとっても短くて、文庫本143ページなんだけど、情景が浮かぶ作りになってるのです。立ち位置やカメラの視点まで設定して書いたんじゃないかと思うくらい、この小説は映画なのです。
町の広場とそこに面した店々、家々、働く人たちや行き交う人たち、純真だったり憎悪に燃えたりしている人たち、よく研いだ豚のと殺用ナイフ。一人一人が確実にそこに存在していて、脇役の人のそれまで、それからの人生までそこにあるようでした。
一番最近のあたりでいうと「横道世之介」みたいな、過去と現在を行き来しつつ最終地点に収束する構成ってのは、1981年に書かれたこの小説より、おそらく映画の方が先?
そして、夢占いや偶然の連なりのせいで現実離れしていく内容も、実は夢とかオカルトまでいってしまうことはありません。
美しい映画のようだけど、その裏には、人間の流されやすさや残酷さ、ずるさもリアルに見えてきて、読んでも読んでも濃いままです。だけどシリアスになりすぎず、祝祭のような美しさや華やかさが色あせないまま終わります。
いやー面白かった!もっと読みたい。