柚木麻子「BUTTER」506冊目

(ネタバレあり)
わりと変わった小説だなぁ。
冒頭から最後まで、なにかとバターに寄せた話の展開になっていて、もうエシレバターを固まりで買ってきてバクバク食べたくてたまらなくなります。
乳製品会社のパンフレットに連載された小説(バター販促品)と言われても驚きません。
しかし、「学校カースト」なんてのは「トイレの花子さん」みたいに、恐れれば恐れるほど勢いを増してしまう魔物だ。この小説の中にも流れる、行動動機をコンプレックスにひもづけずにいられない傾向もそういうものに起因しているんじゃないでしょうか。そこを乗り越えて、人間の深いところにある悲しみや愛にまで達してくれたら、感動の涙に至ることもできた題材なんじゃないかと思います。
 
婚活殺人の容疑者が殺人を犯したのかどうか?という点は、ほぼ「犯していない」に傾いてるんだけど、この本のモデルになったと言われている受刑者がこの本を読むかもしれないという恐れによるものかしら。その方が買っておいた練炭を、車を持たない被害者がどうにか運んできて自殺したなんて、それを納得させるストーリーもないのに、にわかに信じにくいです。読者をどっちに向けようとしてるんだろう?ミステリーとしての読みごたえを追求するなら、たとえば姉に盲従している妹がずっと共犯だったとか・・・お料理教室の意外な人物が協力してたとか・・・何かもう一つ、仕掛けが欲しかったです。

ただ、優雅でおいしそうなものに囲まれる不思議な気分にはうっとりできました。そういう意味で、変わってて面白かったです。
 
牛乳が牛の血からできているということは、バターというのはコレステロールになりそびれた血中脂肪分ということかなぁ・・・。