ケン・リュウ編「折りたたみ北京」588冊目

テッド・チャン(「メッセージ」など)、劉 慈欣(「三体」)、ケン・リュウ(「紙の動物園」「母の記憶に」)と読み進めてきて、超一流の作家でもあるケン・リュウが自ら翻訳して英語版を売り出している新進気鋭の中国語作家のアンソロジーがあるなら、そりゃ読みたくなるじゃないですか。第一、タイトルが面白そう。実際この小説は北京の町が上流・中流・下層の3つの地域・人々に分かれていて、1日24時間を分け合って暮らしているという設定。それぞれの暮らす建物はきれいにくるまれて片付けられて、他の人々の目には触れないようになっている…なんて斬新な!

このアンソロジーに収録された珠玉の短編はどれも、最新の宇宙科学やコンピューターの知識だけでなく、数千年も続く中国文化、家族や友人への愛、善悪の深い洞察といった深みのある素晴らしい作品ばかりです。日本で人気の若いミステリー作家たちの作品が薄っぺらく思えてくるくらい。(日本では関係性の喪失が中心にある作品が多いので、人間関係が薄くなるのは当然とはいえ)

技術が発達しきって、地球人がほかの生命体の住む天体に行った「後」、他の生命体が地球に来て共に暮らすようになった「後」、を見越して書いているものがほとんどで、彼らの見越している時間軸の長さと深さに、かの国の歴史の長さや文化の深さを見せつけられてしまって、小さい島国の自分はまだ漂泊を続けているに過ぎないのかと愕然としてしまうのです。

あまりに佳作ぞろいだったので、次にまたこの作家たちと出会うときのために、作家とタイトルだけでもメモっておきます:


陳楸帆「鼠年」「麗江の魚」「沙嘴の花」
夏笳「百鬼夜行街」「童童の夏」「龍馬夜行」
馬伯庸「沈黙都市」
郝景芳「見えない惑星」「折りたたみ北京」
糖匪「コールガール」
程婧波「蛍火の墓」
劉慈欣「円」「神様の介護係」 

 

 

エリザベス・キューブラー・ロス「続死ぬ瞬間 死、それは成長の最終段階」587冊目

また借りてきたけど、この本はさまざまな宗教や文化における死について書かれた論文集でした。面白そうと思って借りたんだけど、思いのほか自分にはとっつきにくかったです。だいぶ読んだけどこれでキューブラー・ロスシリーズはいったん終わりかな…。

 

エリザベス・キューブラー・ロス「死ぬ瞬間~死とその過程について」586冊目

これが最初の、いちばん有名な世界的ベストセラーになった本。1969年の抄訳本ではなくその後完訳されたものです。

後で書かれた本と比べて圧倒的に医学書の色合いが強いです。キューブラー・ロスはまだ100%精神科の医師であってカウンセラーとかセラピスト、ましてや思想家のような様子はまったくありません。

欧米のちょっと昔の本には必ずホロコーストという恐ろしい出来事の話が出てくるし、この本は末期患者やその家族の生の声がたくさん収録されているので、気楽に読める部分など1ページもありません。

死の受容までの5段階について、おそらく一番詳しく書かれた本でもあります。名著だけど、5段階については先に答えを見てしまったような感じで、ほかの本で言及されるのをかなり見ているので、重いけれど私が一番読みたかった本ってわけじゃないなぁという印象もありました。

 

エリザベス・キューブラー・ロス「ダギーへの手紙」585冊目

子ども向けの大判の絵本だった。

死生観を末期がんの子どもに聞かせるという非常に難易度の高いミッションを果たそうとした偉大なる本。人の一生は春夏秋冬だ、やるべきことが全部終わったらさなぎを脱いだ蝶みたいに飛んで行って、先に飛んで行った人たちと一緒になる、といいます。

死後の世界のことだけは、まだ死んだことがないからわからない。だからこの本に書かれたことが「科学的に正しい」のかどうかをはかれる人は生きてる人間の中にはいないんだけど、運命を受け入れる助けになるだろうなと、温かい気持ちになれる絵本でした。 

 

エリザベス・キューブラー・ロス「ライフ・レッスン」584冊目

キューブラー・ロスの本がとてもよかったので、さっそく続けて読んでみました。

これもいい本。よりよく死ぬということはよく生きた後に起こる結果だから、人はどう死ぬのかをある程度わかって安心したら、じゃあさっそく今日どう生きるか?ということを考え始めないといけません。

ここ数年、滅入ることが続いて瞑想とか内観とかいろんなことに挑戦してきました。自分を否定して否定して、自分でないものを目指しながら、中から自分を動かすエネルギーにうまく対処できずに弱ってしまっていて、それが行くところまで行ってしまった気がします。手放すこと、明け渡すことの大切さ。

旅に出ると、バス停にたどり着いても2時間待つしかない、といった状況に遭遇します。そういう何もしない、何もできない時間が自分をやっと本当に休ませてくれる。私はフルタイムの仕事を辞めて、これからの人生は自分を満たしてやることに専念しようと思っています。今までよりヒマで今までほどお金を稼いでないけど、それがいったいなんだっていうんでしょう? 

 

武田俊太郎「量子コンピュータが本当にわかる!」583冊目

最近少しずつ勉強している量子コンピュータの本。現在開発されている量子コンピュータのハードウェアには、汎用型の「量子ゲート方式」と、実用化されているけど”巡回セールスマン問題”を解くだけの単一マシンである「量子アニーリング方式」があります。この本では「そもそも量子コンピュータとは」にプラスして、量子ゲート方式のハードウェアの4種類について解説しています。

その4方式とは、量子アニーリングマシンでも採用している超電導を使ったもの、イオン方式、半導体方式、光方式。著者が開発を続けているのは最後の光方式だそうです。原子レベルのものを扱うわけなので、厳密な環境管理が必要だし、そこでさらに厳密な計算を行いエラーを減らしていくというのは、現在の人知を超えるほどの作業が必要です。心が折れそうになることもあるだろうなぁ。こういう全く今存在しないものの研究開発って、人材と資金が豊富なところでしかなかなか成功しないと思うけど、現在のコンピュータとは違って少しでも日本の技術が一端を担えるといいですね。

 

E・キューブラー・ロス「「死ぬ瞬間」と死後の生」582冊目

タイトルがものものしい感じもします。人間はみんな根源的に死を恐れる部分があると思いますが、年を取って、「とりあえずみんな、死を恐れるひまがあったらしっかり生きるべき。死は生が終わる瞬間のことで、しかも、気にしたら変わるというもんでもない」と悟ってからは、科学的探究心をもって、死そのものや、死に関する自分の感情を見つめなおすことに非常に興味がでてきました。

「看取り」の講座を受けたときや、カンヌ映画祭で最高賞を受賞した「オール・ザット・ジャズ」という映画を見たときにこの著者の話が出てきていて、ずっと気になっていたのですが、このたび初めて借りてみました。死について自分で生まれてこのかた自分なりに考え続けてきたことが、書いてある。そう感じています。

超常現象とか不思議とかカルトとか、誰かが名付けたことには興味はないけど、自分の中にある感情や感じたことが何なのか知りたい気持ちはあります。霊感が強いほうだとか言われると、幽霊も見えないし言葉が聞こえるわけでもないのに?と思うけど、じゃあ自分が感じたものは何なんだろう?…ちなみに、この本では死期がとても近い人たちのそういう感じのことしか書いてないので、私の感じについて解き明かしてくれるわけじゃないんだけど、まだ全部は解明されてないだけで、そうかやっぱり何かあるんだ、と、救われた気がしました。

自分の中の「黒いウサギ」を発見して、さらけ出さない限り、怒りや憎しみにさいなまれ続ける。そうしないと、自分の中にいるヒットラーを退治することができない。という話がとても印象的です。自分が怒るとき、怒りの対象は本当は相手にはない。…そこまでは気づいていたんだけど、それでも私にはまだ、怒りを抑えることはできていません。

もう少し確信をもって、科学的に、死に向き合えるようになって、そういった理解をもっと広げていきたい。そう思っています。