吉野源三郎「君たちはどう生きるか」762冊目

一度読んでみようと思ってた本。書かれたのは1937年、昭和22年。第二次大戦前夜の日本で、児童文学者である著者が少年少女たちに強く働きかけたかったことが熱く、かつ静かに語られた、美しい本です。昔の映画みたいな真剣な倫理観が、戦前ではなく戦後の作品だけど、たとえば「キューポラのある街」なんかを思い出します。

読後感がすばらしいですね。素直に育ってきた思慮深い少年が、ときに迷いつつ、友達や家族の愛情に支えられて強くまっすぐな自我を育てていく、よい未来が見えるようです。現実には1937年に15歳の少年たちのうち何人かは戦争に行ったかもしれない。全員が戻ってこられたかどうかはわからない。今の時代、悪い情報のほうが良い情報より目につく中で、この本を読んでさえネガティブな感情が近づいてくるのが辛いところだけど、心の中に湧き上がってくる不安より、この本を書いた人がいたという事実だけを胸に、自分はどう生きるか、私も考え続けようと思います。

人はだれしも、たぶん全員、人をいじめたことがある。それを認識して心の痛みに向き合い、相手に謝ることができるかどうかが最高に重要なポイントで、それができた人は、いじめたことがない人よりも得難いのです。

他の人たちの感想も見てみたいな。読書感想文サークルとかってないのかなぁ…。

 

綿矢りさ「ひらいて」761冊目

この間見た映画「勝手にふるえてろ」がとても面白かったので、映画「ひらいて」も見ようと思ってるけど、図書館で見かけたので今度は原作を先に読んでみました。

重い…衝撃波が…破壊力が…。相変わらずすごいわ、この作家。シチュエーションは、黒いけど現実にけっこうありそうな三角関係なんだけど、主人公ののめりこみ方が常軌を逸していて、かつ攻撃された二人の腹の座り方もすごいので、三つ巴というか三すくみというか、ぶつかりあって巨大なエネルギーが生まれます。

そのとき、一方的な破壊者であった主人公が受け身でもあることに気づき、彼女が巨大な風穴を開けたことでやっと膠着しきっていた、古く硬い不幸の表面が解け始めてくる。

似たような思いをしたことがある人はゴマンといるはずだけど、ここまでの破壊は経験できない。自分と好きだった人も、あるいは親友だと思ってた人も、ここまでお互いに開けば大きな地震が起こせたんだろうか。

停滞と安定の共存→やむにやまれず発生する破壊と混乱→何か固まっていたものが壊れ、何か新しいものが強大なエネルギーとともに生まれる

のが、この作家の作品じゃないかな。見逃されずに世に出てきたのは当然の才能だったなぁ…と改めて。

 

大西連「絶望しないための貧困学」760冊目

去年の11月に読んだ「すぐそばにある『貧困学』」の新書版でしたね。手に取ってから気づいたけど、大西さんの高校生の頃から「もやい」初期に至るエピソードが中心なので、内容が古くなっていないし、コラムで引用している統計データは更新されています。単行本が出た2015年から4年経って、変わったこと、変わらないことについて、「新書化にあたり」という前書きで付記されていたり、原著が出た時期に行われた柏木ハルコ(「健康で文化的な最低限度の生活」というケースワーカーの漫画を描いてる)との対談が再録されていたりして、さらにわかりやすさが高まっていると思います。

原著を読んでまだ2か月足らずだけど、年末年始に配ったお弁当が450食に達した話とか、日に日にニュースが目に入ってきて、問題の大きさに圧倒されるばかり。

自分に何ができるか。社会をどう変えていけばいいのか考えてみるけど、こむずかしいことを考えて内にこもるより、何か動いた方がいいんだということはわかる。少しずつでも…。

 

村田喜代子「偏愛ムラタ美術館【展開編】」759冊目

未読の村田喜代子の本が溜まってきたので読んでる。

このシリーズは最初のを読んだ気がしてるけど、ブログは書いてなかった。2番目を飛ばして3番目のこれを読んだみたいだ。

で、これが捧腹絶倒の面白さだった。私は芸術作品を自分勝手に楽しむのが好きだし、感想や妄想を誰かと話し合うのも大好きなんだけど、全然共有したがらない、そういうことを全く楽しいと思わない人もいるらしい。村田喜代子は書くものも感覚が鋭敏で言葉選びも鋭くてすごく刺激を受けるけど、そういう人が芸術作品に触れると、ここまで鮮やかにそれらを読み取って、これほどの思いを広げるのか、と思い知らされた。さすが!!

紹介されている作品や画家は知らない人も多いけど、どれも非常に個性的で大変雄弁(言葉は介さないけど)だ。著者はさまざまな思いを独自に読み取るけど、作者にぶつけるとやんわりと否定されたりする。間違い、なのかもしれない。でもいいのだ。芸術はインタラクティブだから、コウモリが発した電波が作品に反射して自分に戻ってくるように、自分の目で見て自分なりに理解するしかできないものなのだ。戻ってくる電波が多種多様な作品もあれば、あまりブレない作品もあるんだろうな。著者が好きなのは理解がブレブレになる、特徴づけにくい作品ばかりだと思う。私と趣味が合うのだ。

美術展にはよく行く方だし、自分で絵画教室に真剣に通った時期もあったけど、ある時期からまったく描きたいとも見たいとも思わなくなってしまった。最近見るのは「No art, no life」のアウトサイダー・アートばかり。この本で取り上げられているものは王道ど真ん中ではないから私にもヒットしたのかな。

早く2冊目も読まなければ。

 

リード・ヘイスティングス/エリン・メイヤー「世界一『自由』な会社、NETFLIX」758冊目

この本を読もうと思ったのは1年近く前かな。その間にだいぶ”意識高さ”が減ってきてるので、自分の将来に役立てようというより、ある卓越した企業のあり方として読んでる。

創業者が構築してきた強烈な企業文化は、最終章でアメリカ以外の国に拡張するのにかなり工夫が必要だと書かれてる。そうだよな、NETFLIXに入社する人は覚悟して文化変容を目指すだろうけど、日本の会社にい続ける人たちは、文化を変えようとするより、できそうなところから取り入れるくらいだろうな。

コロナ禍で閉塞感、って話はよく出るけど、会社や仕事も外からの風がよく通るほうがいい。いろんな会社にうまく新しい風が通るといいな…。

 

藤巻健史「コロナショック&Xデーを生き抜くお金の守り方」757冊目

「資産運用大全」はとても難しい本だけど金融の仕組みを解説していて、こっちはぐっと平易に誰でもわかる感じで具体的な金融商品の投資のアドバイスをしている本。がんばってあっちを先に読んで、こっちをその後のQ&A編として読んでも良いかもしれないし、1冊だけ読むならこっちを読むと良いと思います。

ハイパーインフレ…まあ、来るかもね、(来ないかもね)くらいな感じで頭の隅に置いとけばいいんじゃないですかね…。

 

稲葉剛「貧困パンデミック~寝ている『公助』を叩き起こす」756冊目

コロナ渦にある日本の、特に東京のホームレスの状況がすごく正確に把握できる良書でした。漠然と、じゃなく、きちんと知ることからしか何も生まれない。ただ…

自分の中で、①いっしょうけんめいお金の勉強をして、少しでも減らさず増やすように、日本円が暴落してハイパーインフレが来てもいいように備える、

という部分と、

②すでに貧困やホームレスの状態に陥ってる人たちがこれ以上落ちていかないように、なんとか暖かい部屋でゆっくり寝られるように、援助をがんばる、

という部分が、一致しているのか矛盾しているのか、混乱してくることがあります。

自分の中では、必要なだけ稼いで、すでに貯金した分はなるべく手を付けずに残して、死んだら応援している団体に全部遺贈するからいいんだ、と自分なりに決着をつけてるんだけど。

①の自分を肯定すると、お金を貯めてこなかったから貧困に陥るんだと誰かを責める声や、政府がお金をばらまいてるから日銀がとんでもない債務超過に陥るんだっていう声が聞こえてくるような。②の自分を肯定しようとしても、「で、その財源はどこから出てくるんだ?」という声が自分の中から聞こえてくる。

セクハラやパワハラやブラック労働に耐えて耐えて、身を削って働いて貯めたお金。でも、同じようにがんばったのに脱落した人もいる。そういう人たちを救えるなら、高い税金も我慢しようと思って払ってきた。それをうまく正しく使えてるのか?オリンピックはお金の面からも政策的な部分からも東京でこの時期にやるべきじゃなかった(たとえコロナがなくても)と信じてるし、誰も使わないマスクの不良品を大量に作って在庫してることは大失敗だと思うけど、それ以外の部分で、本当にうまくお金を使えてるのか?

ホームレス状態にある人に今夜の宿は緊急性のある支援だから絶対にケチれない。そのために、どうすれば少しでも無駄なく賢くお金を使えばベストなのか。寄付や政府の支出でホテルの部屋を確保することと、著者の団体でシェルターを所有することと、どちらが長い目で見ればコスト減できるのか。

ハイパーインフレが、来なければいいけどもし来てしまったとき、今ホームレスあるいはその瀬戸際にいる人たちはどうなってしまうのか。ホームレス状態を減らすための就労支援や企業支援、ひっ迫している自治体窓口の支援など、社会全体の足りないところに余っているところをうまく配分していって、中で完結に近づいていく仕組みを、誰も作ってくれないだろうから、自分たちで作っていくことも必要になってくるんじゃないか?

自分だけよければいいと思ってる人でも、自分以外の人たちがひっ迫してると結局自分にもしわ寄せがいつか来るわけだし。今あまっている資金や住宅を、拠出しつつ自分の将来も守れる、信託みたいな仕組みができたらいいのにな…NPOだけじゃなくて自治体にも同じくらいの数の同様のボランティアを配することが必要じゃないかな、とか。

「だったらお前がやれよ」と言われたときに「よーし受けてたってやる」と言える自分になれるだろうか。勉強してれば、いつかは??