MITで日本式経営学を教えている、偉い先生が書いた本です。この人の講演を学校で聴いたんだけど、先に本を読んでおけばよかったーー!
タイトルを見ると、ビジネス書を読みつけている人は、「なにかビジネスの改革をするためにきっとこの人はブレイクスルーというキーワードを使って自説をぶつのだな」と考えるのでしょうが、その通りです。 ブレイクスルー(BTと省略)という用語自体は、わりと一般的な意味で使われている印象で、違和感はありません。(イノベーションという言葉と置き換えられる部分もけっこうあると思います。)
でも、そういう論文っぽい部分は前半だけで、後半はBTを生み出すための方法論について、楽しい提案が続きます。さすがアメリカで受け入れられている日本人、エンターテイメント性があります。方法論とはたとえば、「ビジュアルイメージにより兆候をとらえる」、「言語化および抽象化の方法」、と表現されています。前者はたとえば、一見して「あれ?」と違和感を覚えるとき、その違和感をつきつめて分析すると問題点が浮かび上がってくるとか、会社として目指す目標を絵にしてシンボルとして共有すると浸透する、といったビジュアルな現状認識の方法について書かれています。後者ではアイデアを出すときのグルーピングや抽象化の手法について書かれています。理論の本なんだけど、実例も多いし、ハウトゥのような部分もかなりの割合を占めています。
全体的な感想としては、実例に入ったあたりからは単純に面白かった。10へぇくらいです。(古い)理論の部分は、すでにいろんな先生方の理論を読みつつある耳年増なので、4へぇくらいかな。
以下、恒例のメモ:
第2章「アンラーニング(成功体験からの脱却)」が必須という。他の本にも似たようなことを書いてあるけど、かなり強調してます。
第3章 (p96) 会社トップがBTに理解を示さない限り成功しないという。さらに、トップがBTに理解のない会社の場合、「やめろ」とすっぱり。「そうはいっても小さなところから改革していけば・・・」などと私は長いこと考えてきましたが、司馬先生の言うことの方が正しいと今は思う。大きな意見の相違があって、自分が正しいと思うことを我慢しなければならない状況が長く続くと、あきらめがちになってしまって良くない。もっといろんな考え方の会社がたくさんあって、diversityが実現できるようになると、もう少し全体的に暮らしやすくなるかもしれないんだけどね。(cf p161でも、経営陣を変えない限り企業は変えられないと書いてある)
第4章でとりあげているSOLとFAVIという2つの会社の事例は極端で面白いです。SOLではトップの下は全部20人くらいの小さなグループで、それぞれが自治を行っている。成績やプランなど、情報はほとんどすべてシェアして、目標も自分たちに立てさせる。フェアな競争をさせることで、全体のレベルがあがるという実例らしい。小さい会社の集まりのようなんだけど、全体としてそこそこの大きさの企業体を保つことのメリットも、インフラのシェアとか外向けの見せ方などの面でプラスになっている、という。おもしろいけど、これ農耕民族の日本でもうまくいくかなぁ。地味なトップ、「継続すること」が企業の目標だ、という考え方は、「ビジョナリーカンパニー」って本に似てるな。
第5章 P161 東南アジアに進出したある日本の工場長が、規範となるためにゴミを拾ってたら現地女子社員が「ここにも落ちてるわよ」。そういうことではモラルはあがらないと言いたいのだろうけど、ホンダアメリカのもと社長が言ってたのとちょうど逆だ。土地柄なのか、それとも「そういう局所的なことだけやってもだめだ」ということなのか。
第6章の「ビジュアル・イメージ」はおもしろい。でも、ことさら教えてもらわなくても、みんな経験からそういうのを身につけてるのでは。
第7-8章では、BTをサポートするUS社会の仕組みとか、学校の仕組み(ちょっとMITの宣伝っぽい)とかが書かれてます。米国ベンチャーの仕組みは面白いからコピーしておこう。米国では社外メンタリングが発達してるらしい。日本ではMOTがそれなんじゃないかしら。「仕組み」は人や社会や文化に合わせて変えた方が根付くからね。
以上。