堀川恵子「永山則夫 封印された鑑定記録」390冊目

ノンフィクションです。集団就職で上京して、19歳のときに、たまたま手にした米軍の拳銃で、縁もゆかりもない4人を殺害して、裁判の末死刑になった永山則夫という人について、本人の手記を含めて本はたくさん発行されました。これは、最近になって知られるようになった精神鑑定記録をたどりながら、彼の人間性に深く深く入り込んでいこうとする本です。

新藤兼人監督の「裸の19歳」という映画を見て初めて、どういう事件なのか知ったのですが、この本を読むと、特別な人じゃない、私と同じような素質を持って生まれたひとりの人間が、踏まれて傷つけられてないがしろにされて、そういうことに慣れたり諦めたりしながら、終局にまっすぐ向かって行ってしまったことがわかっていって、なおさら切ない気持ちです。

誰か一人が悪いのでもないし、こうなることを避けるのは難しかったんだろう。人間関係や社会のしくみのひずみが、一番小さい者の中に溜まって重く重くかたまってく。今起きている事件と同じだ。
幸せになれなかったこの人のことを、同じ一人の人間として大切に思っていたいと思いました。