新藤兼人「三文役者の死 ― 正伝殿山泰司」本の270冊目

1991年発行。

追悼・新藤兼人、ということでこの大監督の著書を何冊か買ってみました。

古本が1円とか100円とかで買えるところが哀しい。死亡記事を見た人に映画は見返してもらえても、著書まで思いだしてもらえないのが、映画監督って商売なのかも。

さてこの本です。

読んだ人がかならずタイちゃんを愛してしまうような、愛と友情あふれる仲間の書、です。でまた、本当に作家として素晴らしい筆力ですね、新藤監督。

それから、インタビューや普段の会話から、それぞれの人となりを映したコトバを拾い上げる力がすごいです。文章にも抜かりがありませんが、映画という立体物をずっと手掛けてきた巨匠ですから、構成のドラマチックさが、文章だけ書いているたいがいの人と比較にならないくらい卓越しています。

まずタイトルが秀逸。かっこわるいことを突き詰めるとかっこいいのです。そして第1章からの章タイトルが「三文役者の死」、それから「三文役者お別れの会」、「三文役者を偲ぶ会」とここまでで彼の死のセレモニーが終わり、次章からタイちゃんの一生を生まれたときから死ぬちょっと前まで順にたどっていきます。

タイちゃんを語るうえで欠かせないのが二人の妻。15年連れ添った「鎌倉の人」、その後30年連れ添った「赤坂の人」の二人です。きっちり離婚できないのが優柔不断でやさしいタイちゃん。傷つけることができずに酒びたりになる小さい男、「どうもどうものタイちゃん」です。

面白いところ、じわっとくるところ、いろいろありますが、とにかく名文なので一読されることをお勧めします。

人が死んだら必ず誰かが伝記を書いてあげるようにしたらどうだろう。誰かに丁寧に自分の生きてきた道をたどってもらって、思いだしてもらえる、ということで、浮かばれるんじゃないかな。いや、死ぬ前に自分でタイトルを決めて、誰かに伝記を書いてもらえたら、かなり満足して死ねるような気がします。

最近の、というかこれからの私のテーマは「幸せに死ぬこと/死なせてあげること」な

んだけど、「伝記書きます」という商売があったらいいよね…。あ、私やりますよ。もし書いてほしい人がいたら、コメント欄でご発注ください(笑)

新藤監督の評伝は何冊かあるようですが、ではその評伝の著者の評伝は誰が書くんだろう。そうやって、命をつなぐような温かい輪がゆるりとつながっていったらいいな…などと思います。以上。